日埜直彦/建築家

『グラウンド・ツアー』 『グラウンド・ツアー』 『グラウンド・ツアー』 『グラウンド・ツアー』 『グラウンド・ツアー』
1──『グラウンド・ツアー』

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藤森照信『グラウンド・ツアー』(編集出版組織体アセテート)
おそらく藤森設計の建築のどれよりも「藤森的建築」がここに現われているような気がする。リソースとしてのヒストリー、ある種の唯物史観なのかもしれない。

Mike Davis, Daniel Bertrand Monk『Evil Paradises: Dreamworlds of Neoliberalism』(New Pr, 2007)
金融危機の後あらためて感慨深い。バブルによって競われる都市間競争がビルバオ以降の基本的トレンドだったが、その反動はかならずやってくるのだろう。"wow-chitecture"の終焉をグリーンビルディングに向けて受け流すことで乗り切れるとはちょっと思えない。

山内志朗著『普遍論争──近代の源流としての(中世哲学への招待)』(平凡社) 
建築とは全く関係がない本だが咀嚼力さえあれば良書。中世の普遍論争は過剰な煩雑さと厳密性ゆえに非生産的だったと言われる。透明かつ明晰な近代的普遍観からすればそれはもちろんそうなのだが、この価値観自体が歴史的かつイデオロギー的なものなのだろう。そこに分け入って視差を少しでも感じられれば逆にそれはきわめて豊穣である。

Y-GSA『OURS:居住都市メソッド』(INAX出版)
都市に対するアプローチとしてトポグラフィカルかつ編年的なアプローチがあるのはこの種のものとして日本では珍しいと思う。ぜひともこうした仕事に勇気づけられてさまざまな場所で都市の像を豊かにしていく作業が後に続くことを期待したい。

『Evil Paradises: Dreamworlds of Neoliberalism』 『普遍論争』 『OURS:居住都市メソッド』
2──『Evil Paradises: Dreamworlds of Neoliberalism』
3──『普遍論争』
4──『OURS:居住都市メソッド』


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《建築の記憶》庭園美術館
写真に撮られた建築の姿を軸とした展覧会だが、写真という切り口で切り揃えるだけで維新前から現代までが等価に整列してしまうのは面白い。記憶というとパーソナルなニュアンスがあるが、ここに見えているのはなにかもう少し社会的なもので、いまだ歴史となっていないが歴史となるべき控えているような記憶なのだろう。カタログの出来もすばらしいが事情により入手困難というのが残念。