五十嵐太郎/東北大学教授・建築史

『斜めにのびる建築』 『small images──小さな図版のまとまりから建築について考えたこと』 『原っぱと遊園地2』
1──『斜めにのびる建築』
2──『small images』
3──『原っぱと遊園地2』

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クロード・パラン『斜めにのびる建築』(青土社)
拙著の『終わりの建築/始まりの建築』の第一章ではとりあげたものの、日本ではほとんど紹介されていなかった1960年代のフランスの重要な建築論がようやく邦訳された。著者は、ポール・ヴィリリオと組んで、水平でもなく、垂直でもなく、斜めという切り口でユートピアの構築をめざした。彼らの思想は、ジャン・ヌーヴェルにも影響を与えたほか、現代建築の視点からもさまざまに再評価である。

石上純也『small images──小さな図版のまとまりから建築について考えたこと』(INAX出版)
21世紀のゼロ年代に登場した若手建築家の作品集。大量の小図版と文字が等価に並ぶデザインは、まさに彼の作品そのもの。ヴェネチアの会場では、飛ぶように売れていた。

青木淳『原っぱと遊園地2』(王国社)
本書に通底するのは、リノベーションの思考というべきものである。当初の機能を失った箱は、新しい意味を獲得する。例えば、東北地方の曲がり屋は馬と住むためにつくられた家の形式だが、もはや馬がいないからこそ、現代のわれわれは異なる空間の使い方を想像できる。商業施設も公共施設も、あらゆる建築は時間の流れのなかで意味と役割が変化するが、青木の考え方は、そこにデザインの可能性を発見する。モノと機能のズレが新しい世界への扉を開くことを教えてくれる。

伊奈英次『Emperor of Japan 』(Nazraeli press)
歴代の天皇陵すべて、ならびに124代にカウントされない北朝の天皇陵なども撮影した写真である。いずれ考えてみたいと思っていたテーマだ。ほとんどの陵に記号としての鳥居がつくが、まわりの風景がさまざまであることが興味深い。

『Emperor of Japan 』
4──『Emperor of Japan 』


●2
1月に京橋のINAXで行われた「ラウンド・アバウト・ジャーナルのライブ+展覧会」。次世代建築家のレクチャーをすぐに公開編集し、会場でフリーペーパー化するイベントは、まるで新聞社のよう。藤村龍至を中心とする、この動きは、『エディフィカーレ』以降のもっとも重要なオルタナティブ・メディアの試み。僕らには想像できなかったかたちで、若手の核となるムーブメントが進行している。書き言葉よりも、インタビューやレクチャーを文字に起こす語りの言葉が多いこともライブ的で、特徴的。

9月に参加した《ヴェネチアビエンナーレ建築展2008》。今年は「architecture beyondbuilding」というテーマを反映し、前回の都市リサーチの研究発表に比べて、アート的なインスタレーションが多い。もちろん、日本館が一番思い入れが深いが、他の国では内部をほとんど空っぽの空間とし、建築そのものの美しさを引きだしたベルギー館が良かった。

10月スタートのギャラリー間における《安藤忠雄「挑戦─原点から─」展》。現在の世界各地のプロジェクトを紹介しているが、とにかく展示の目玉は、1/1のサイズで住吉の長屋の実寸模型が会場に設営されたことに尽きる。これだけ有名なのに実際に訪れるチャンスがほとんどない作品だけに、空間のスケールを体験できる貴重な機会を与えてくれた。9月の石上純也のextreme natureと、平田晃久の《イエノイエ・プロジェクト》、11月の大西麻貴+百田有希の《都市の中のケモノ、屋根、山脈》など、2008年は1/1の展示が続いた。

10月の建築学会による《アーキニアリング・デザイン展》。自分が学生のときに、こういう展覧会があったら、良かった。古代ローマのパンテオンから最新のヴェネチアビエンナーレ日本館まで、いろいろな大学の制作した構造模型を通じて、デザインとテクノロジーがいかに融合し、豊かな空間を生みだしてきたかを教えてくれる。佐藤淳さんの手がけた膜テンセグリティ構造のインスタレーションも中庭に浮かぶ。どこかで所蔵し、常設で見ることができるようになると良いのだが。