鈴木明/神戸芸術工科大学教授・建築デザイン論

『セルフビルド SELF-BUILD──自分で家を建てるということ』 『Home Delivery: Fabricating the Modern Dwelling』
1──『セルフビルド SELF-BUILD──自分で家を建てるということ』
2──『Home Delivery: Fabricating the Modern Dwelling』

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石山修武+中里和人『セルフビルド SELF-BUILD──自分で家を建てるということ』(交通新聞社)
建築家石山修武、小屋の写真家中里和人によるセルフビルド建築ガイドブック。コンテナの飲み屋、トラック改造のモバイルハウスにはじまり、コンクリート打放しのゼロ戦の格納庫、隅田川べりの「完全0ハウス」など、野趣溢れる建築ばかりでなく、磯崎新の隠れ家や松浦武四郎の一畳敷、著者の自邸を含む作品も含まれている。写真家と同行し、その家を作り上げ、住み続けているセルフビルダーに取材する。
著者は、このような人間本来の住まいをつくる能力の復元を、国内だけではなく世界中を巡り、浪花節で聞かせるだけではなく、アポロ十三号がNASAとの交信をたよりに故障箇所をガムテープで「セルフビルドならぬ、リメイク」したような、コミュニケーションや情報収集能力も必要であることを説く。

Barry Bergdoll+Peter Christensen『Home Delivery: Fabricating the Modern Dwelling』(Museum of Modern Art)
本書は、ニューヨーク、MoMAで開催された展覧会(同題)と同時に出版されたもの。いわゆるプレファブ住宅の始まりは、(西欧では)19世紀植民地における傭兵による建設にはじまり、アメリカでは西部開拓、ゴールドラッシュによるブームタウンの建設など、バウハウスやル・コルビュジエのモダニズム建築アヴァンギャルドたちの系譜とは違った普及を見せている。ふたつの大陸で活躍したマルセル・ブロイヤーの「ヤンキー・ポータブル」などは、現代米国の住宅(世界的な不況の元凶となったサブプライムローンによる一般住宅)にも受け継がれているごくごく標準的な工法ではないか、という驚きもあるのだが。
ジャン・プルーベの住宅やFuturoHouseなど記念碑的な住宅、隈研吾をはじめとする現代建築家の住宅、レゴなどの教育玩具、また、展覧会のために依頼された作品、コンピュータとレーザーカットを用いたオンデマンド式住宅の提案などを網羅している。

『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』 『建築史的モンダイ』
3──『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』
4──『建築史的モンダイ』

瀧口範子『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント社)
著者はパロアルト在住。超多忙建築家レム・コールハースに同行インタビューするなど建築業界でもよく知られているジャーナリストだが、かの地でのIT企業を牽引する企業家、エンジニアらへ交流と、その思考やアイデアを生みだす活気や土壌を紹介する。「テクノロジーが社会の枠組みを変えるかもしれないという可能性」を信じる、楽天的というよりはスーパーポジティブな環境の中ならばこそ、さまざまな試みがつぎからつぎへと繰り出されていくのだということがよくわかる。
表題は、かの地におけるゴミの自動分別機の導入時におけるエピソード。めんどくさい資源ゴミ回収より、効率がはるかによいらしい。これこそIT(情報技術)じゃないか、デザイン(インタラクション)の問題じゃないかと、つよく共感を覚えるのである。

藤森照信『建築史的モンダイ』(ちくま新書)
歴史家であり、建築家である著者が、新石器時代まで遡るあらゆる建築、住宅に対してわき上がった素朴な疑問について思いを巡らした。その話題は、住まいの原型、和洋の建築スタイル、茶室、超高層と、それぞれアカデミックな世界の学者が眉間にしわを寄せて取り組むものばかり。しかし、著者は、文字通り設計や材料調達などの現場で気づいた事柄から思考を進め(ハイデッガーのような還元的な思考スタイルではないか)、まるで講釈師のような痛快な語り口で、読者を引き込んでいく。
現在、もっとも平易、かつスリリングな建築入門書として、建築業界以外の読者にもお薦めしたい。


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坂本一成 建築展《日常の詩学》東工大百年記念館/10.2〜21
なぜか清々しい建築展。

《ワークショップ20年のドキュメント展》目黒区美術館/7.1〜8.31
建築だけではないが、美術館におけるワークショップのアーカイブとして。

《シェルター×サバイバル──ファンタスティックに生き抜くための「もうひとつの家」》広島市現代美術館/2.16〜4.13
マイケル・ラコウィッツのホームレスのためのシェルター(ビル排気口の空気圧を利用したニューマチック)、津村耕佑のペットボトルでつくった鎧はよかった。