横手義洋/東京大学助教・建築史

『建築史』上巻 『建築史』下巻 『グラウンド・ゼロから──災害都市再創造のケーススタディ』

1──『建築史』上巻
2──『建築史』下巻
3──『グラウンド・ゼロから──災害都市再創造のケーススタディ』

●1
オーギュスト・ショワジー『建築史』(桐敷真次郎訳、中央公論美術出版)
19世紀末に出されたフランス人による壮大な世界建築の歴史。19世紀に出されるようになった一連の建築史書の系譜につながるものの、それまで以上に地理学や構造学に傾倒した見方を提示するところにショワジーのユニークさと歴史的意義がある。解説図版もショワジーの趣向を体現していて大いに楽しめる。なにより歴史的名著がようやく邦訳されたことに喜びを感ずる。

ジョアン・オクマン編『グラウンド・ゼロから──災害都市再創造のケーススタディ』(鈴木博之監訳、鹿島出版会)
いまや歴史的事件となった9.11を契機に、世界中でさまざまな議論が展開された。本書もそうした成果のひとつで、世界の都市が過去にどれほどの自然災害、人為的災害を被ってきたか、そして、人々はそれをどのように克服し、どのような努力のもとに都市を再生したかを詳細に検討する。たんに過去の事例を検討するだけでなく、これからの都市に対する展望が盛り込まれているところに魅力を感じる。


●2
《建築の記憶 写真と建築の近現代》東京都庭園美術館/1.26〜3.31
建築が創造されるプロセス、あるいは、竣工後の建築の行く末、時々刻々と移り変わる時の流れのなかでは、建築とて一瞬の存在である。建築写真の展覧会は、かけがえのない一瞬を垣間見させてくれる貴重な機会であった。明治から現代までを広くカバーした建築写真には多少の偏りが否めないとしても、そのときその場所にいなかった者にとっては新鮮な情報ばかりである。建設途中の一枚に素直に感動した。