米田明/京都精華大教授・建築家

『斜めにのびる建築──クロード・パランの建築原理』 『磯崎新の「都庁」』 『日本をすり抜けた西洋 北斎の知恵、そして写楽』

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クロード・パラン『斜めにのびる建築──クロード・パランの建築原理』(青土社)
平松剛『磯崎新の「都庁」』(文藝春秋)
横地清『日本をすり抜けた西洋 北斎の知恵、そして写楽』(東海大学出版会)


●2
《Team 10 1953-81》展


これは私だけの感想かもしれないが、2008年についてのアンケートということで,思い起こすにあまり印象に残った本や展覧会が思い浮かばなかった。社会的には金融危機に端を発する建設・不動産関連のあまりよくないニュースが頻繁に伝えられていて,むしろそうした情勢によって建築の文化的側面が,かき消された1年であったかも知れない。したがって1.の書籍は、あまり積極的に推すものではないが,通り一遍の状況分析ではないまさしく原理的な思考に支えられているように思える。特に3番目の『日本をすり抜けた西洋 北斎の知恵、そして写楽』は、西洋的な遠近法がいかに日本に導入されなかったかを探る本で、浮世絵の平面性の起源とその独自の展開を追う興味深い著作である。むしろそれらは日本の伝統的な建築や庭園の技法とどう関係するのかというまた別の疑問を惹起する。2.の展覧会は、そもそもはオランダのNAi(建築協会)が、企画したものでヨーロッパ各地を巡回している。いささか実体として見えにくかった彼らの試みが網羅されており,それらは近代建築が現代建築へと転換する基礎となった,建築と都市の境界域の構造化といった側面を持つ。展覧会にともなって出版されたカタログもよくまとまっており、そこに若き日の黒川紀章の姿が写し出されているのが感慨深い。