ENQUETE
特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<田中浩也
3月11日、私はニューヨークにいました。そのため震災を実際に身体で経験したわけではありません。4月に日本に戻り、自分の次の活動の拠点を鎌倉に立ち上げることに注力しながら、震災に対しては具体的なプロジェクトを起こすことができないまま、忸怩たる想いで過ごしていたというのが率直な心境です。
ただ一方、私はこの数年間ファブラボジャパンという活動を通じて、2010年代は「つくることの民主化 (Personal Fabrication/ Democratized Innovation」と「異業種のさらなる混淆(Do It With Others)」が大きな潮流になってくるだろうと考えていました。2011年はそうした活動の萌芽になったのではないかと思っています。具体的には次のように私の眼にはとらえられました。
- FabLab Kamakura
私は、10年後この両者の垣根が(これまで言われていたような方法とは違う流れから)解体され、より多様な交通や混淆が起こっていればよいと考えます。そして、今年はそれが本格的に始まった年とも言えると思います。
建築家・藤村龍至氏は数年前に次のように述べています。「情報分野の人間は"測定・分析・視覚化"は得意だが、建築分野が持っているような"設計・生産・統合"のスキルを持っていない」と。しかし近年になって、3Dプリンタやカッティングマシンなど、コンピュータと接続できる工作機械・生産技術(デジタルファブリケーション)の普及が大きなトリガーとなり、むしろ情報分野の人間こそが「ものづくり」に多く参加するようになってきています。測定・分析・視覚化の次に「物質化」のための技術が与えられ、それが社会に広く民主化しようとしています。
こうして、「必要な人が、必要なときに、必要な量の、必要な種類の、ものをつくる」生産インフラが整備されようとしており、こうした動向は「パーソナル・ファブリケーション」と呼ばれています。近年のMake:やFabLabの動向はここに呼応しているものです。これは「パーソナルコンピューター(80年代)」「インターネット(90年代)」に継ぐ、第3の大きな技術変革であることは間違いありません。
IT技術が率先してきた「測ることの民主化」「集めることの民主化」から、次に「つくることの民主化」を真剣に考えるべき時期にあります。こうした状況を目の当たりにし、これまで、物質からなる複雑な構造物を"設計・生産・統合"することを担ってきた建築家と、広く自立した人々の能動的な参加と発信をうながすアーキテクチャづくりを担ってきた情報の専門家が本格的に協働できる世界が、眼の前に迫ってきていると確信できるのです。
そうした問題意識をもとに、「設計理論」側に引き寄せて、3名の建築家と私を含む(主として情報技術に思想的ルーツを持つ)2名の研究者で執筆した書籍が『設計の設計』となりました。
- 柄沢祐輔+田中浩也+藤村龍至+ドミニク・チェン+松川昌平『設計の設計』(INAX出版、2011)
私がいま注力しているファブラボの活動は、単独の工房ではなく、世界中の工房の「ネットワーク」をつくることに主眼があるものです。
Connecting Dots=「工房」という「点」をひとつずつ丁寧に繋いで、緩やかな関係を構築することで、産業革命以後の巨大化した「大量生産(=工場型)システム」を乗り越えるべく、オルタナティヴな生産・流通システムを自分たちで整備していこうとする活動です。石巻という場所に、工房を開設された関係各位に強く賛意をお送りするとともに、今後、こうした動きがさらに広がってくることに思いを巡らせています。
震災という「有事」のときばかりではなく、むしろある程度、時が過ぎたあとにでも「建築家は建築家、情報の専門家は情報の専門家」といったセクショリズムを越えて、異業種の混淆(綺麗事ばかりではなく衝突や摩擦も含みながら)を続けられるかどうかが大事であると思います。