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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

永井幸輔

●A1

東日本大震災によって発生した(露になった)都市の機能不全を埋めるように、オープンソースを利用したアーキテクチャが数多く生まれたと感じている。

OLIVE

自転車のチューブから輪ゴムをつくる方法など被災地でもつくれる日用品のアイディアを、wikiを利用したオープンソースで蓄積するプロジェクト。印刷物としても、被災生活支援マニュアル『OLIVE PAPER』が制作され被災地に届けられた。

Todoke!

Twitterのリツイートなどを利用して支援者の声を集め、大口の支援品目の提供を企業にうながすプロジェクト。当時困難だった物流の確保も自ら行ない、実際にアウトドアウェアや靴、下着の提供などが実現している。

そのほか、Creative Commonsを利用した試みも見られ、Googleによる被災地の写真・動画の共有プロジェクト「未来へのキオク」では、写真や動画の提供時にCreative Commonsライセンスの利用が推奨されている。相田みつを美術館のウェブサイトでも、氏の一部の作品にCreative Commonsライセンスが付与されて公開されている
特筆するべきなのは、「OLIVE」にせよ「Todoke!」にせよ、震災後に生まれた多くのプロジェクトは、早いものでは震災からわずか数日という短期間で立ち上がり、短いスパンで少なくない実績をつくっているということである。ウェブやSNSによるワークシェア環境が整ったことにより、都市/社会を駆動するオルタナティヴなメカニズムとして、いまやオープンソースは無視できないほどの存在感を持ち得ている。と同時に、オープンソースを集約し最適化する優れたプラットフォームの必要性とポテンシャルが、東日本大震災を経て明らかになったと感じている。

●A2

Power of Open

Creative Commonsによって制作された、Creative Commonsライセンスの成功事例を紹介する「Power of Open」がリリースされた。Ted、Jonathan Worth、Vincent Moon、Jamendo、Dublab、Al Jazeeraなど、映像、写真、音楽、報道、教育、出版などの数多くジャンルにおける成功事例がシェアされている。現在、日本語版を含めた各国語による翻訳版がリリース済である。

Creative Commons Global Summit 2011

昨年9月、Creative Commonsの国際会議「Creative Commons Global Summit 2011」がワルシャワで開催された。2011年末時点でCreative Commonsの公式アフィリエイトは72カ国に及ぶ。同会議では各国での活動報告や今後の戦略がディスカッションされた。
世界的なCreative Commonsの潮流としては、教育分野やオープンガバメントへのライセンス導入が進んでおり、オーストラリア、ニュージーランド、米国での政府によるCreative Commonsライセンスの導入は注目に値する。

Europeana

欧州委員会が公開しているヨーロッパの電子図書館ポータルサイト「Europeana」では、何百もの文化的作品のメタデータにCC0ライセンス(パブリック・ドメイン・ライセンス)を使用し、パブリックドメインで公開できるようになった。Europeanaは、一昨年の10月、著作権の存在しない作品にパブリック・ドメイン・マークを標準で用いる計画を発表しており、著作物流通、ひいては文化輸出に対する欧州の意識の高さが窺える。

オノ・ヨーコ展──希望の路(広島市現代美術館)

広島市現代美術館で開催されたオノ・ヨーコの個展においてCreative Commonsライセンスが採用され、作品の写真撮影とウェブにおける公開が可能になった。世界的な現代美術家である氏が3.11以後の世界を踏まえて制作した作品を、広島から世界へ、作品の写真撮影を通して媒介できることの意義はけっして少なくないだろう。

そのほか、昨年はYouTubeにおけるCreative Commonsライセンスのサポートが始まった。YouTubeの動画に投稿したユーザーがCreative Commonsライセンスを簡単に付けられるようになり、著作権侵害の心配をせずに自由にリミックスを楽しむことができる。世界で最大級の動画共有サイトでのCreative Commonsライセンスの採用は、率直に嬉しいニュースだった。
また、2009年にウェブラジオ「dublab」の呼びかけで世界中のアーティストからCreative Commonsライセンスを付与されたビジュアルと音が提供されたプロジェクト「Into Infinity」がさらに進捗し、その素材を用いたプロジェクト「Infinity Loops」がスタートしている。

●A3

Creative Commons in Museum

昨年のオノ・ヨーコ展を含め、少しずつ定着しつつある現代美術館におけるCreative Commonsライセンスの導入だが、2012年にも、都内で2月にスタートする展覧会においてCreative Commonsライセンスの採用が予定されている。撮影者と被写体と作品との関係すらもフレームに収めるCGMによる作品写真群は、鑑賞者との一対一の対峙に留まらない、美術作品(特に、インスタレーション作品)の新たな一面をも浮かび上がらせるだろう。
また、上述のCreative Commons Global Summit 2011では、「Creative Commons in Museum」プロジェクトのプレゼンテーションが行なわれ、日本における美術館へのCreative Commonsライセンス導入の成果が各国にシェアされた。美術館におけるCreative Commonsライセンスの導入について、世界的な実践が始まりつつある。

Cloud

Daisuke Tanabe, Bun/Fumitake Tamuraという二人のトラック・メイカー/プロデューサーが原雅明氏と立ち上げたプロジェクト。その第2弾が2012年1月27日からスタートし、今回はマルコス・スザーノと沼澤尚が課題音源を提供している。
また、音楽関連では、Dublabの日本における活動についても展開がある予定。

CCサロン

オープンカルチャーをテーマとした対話の場を作る試みであるCCサロンが2011年に開催された(初回のゲストは、NOSIGNERこと太刀川英輔氏)。今年は、さらに多彩なゲストを迎えての開催を予定している。

startbahn

昨年末に発表された、現代美術家の泰平による「インターネット時代のアート」の為のプラットフォーム。作品の転売時に販売価格の一部が作者に還元されるという追求権な要素を取り入れ作品の流動性を高める、「アーティスト」「コレクター」「レビュワー」の3種類のアカウントを用意し、それぞれが干渉し合うことで作品の売買を活性化させるなど、美術作品売買についての画期的な試みが取り入れられている。

TwitterやTumblrをはじめ、CAMPFIREやOLIVE、STUDIO VOICE ARCHIVEなど、それ自体が先鋭的で高いクリエイティヴィティを持つオルタナティヴなプラットフォームが多様化し、一層存在感を増している。今年も注目していきたい。

すでにCreative Commons、ひいてはオープンカルチャーは、斬新さやスタイルではなく、どのような具体的なアウトプットが実現できるのか、マネタイズを含めた持続可能性があるのか、その価値を真に問われるフェーズに入っている。かたや、Creative Commonsはリーガルに特化したオープンカルチャーにおけるひとつのプラットフォームに過ぎず、Creative Commons単体でなにを生み出せるかを超えて、他のオープンカルチャーとの協働に次の可能性がある。
ウェブデザイナーや編集者へのCreative Commonsの認知度が高いのは、おそらくFlickrが実際に仕事に使われているということなのだろう。Creative Commons Japanにおいても、dublab、Fablab、その他のプロジェクト/場とのあいだで、あるいは、ウェブ上のプラットフォームとのあいだで、より積極的に交感してアウトプットを生み出していくことが必要であると感じている。


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