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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

須之内元洋

●A1

2011年に始まったスマートフォン向けサービスSnapchat★1は、写真(デジタル化されたビジュアルイメージならなんでも良いのですが)によるリアルタイムチャットサービスです。最大の特徴は、ユーザーに着信した写真の表示時間が最大で10秒間に制限され、その時間を過ぎると、閲覧している写真データがこの世から消滅してしまうというアーキテクチャにあります。
これまでインターネットに現われたさまざまなメディアは、基本的には、インターネット以前の既存メディアのメタファを継承しつつ、発展してきたと思います。デジタルメディアが、物質に情報が刻まれるアナログメディアと根本的に性質が異なる存在であることを、私たちは知っています。しかし、人生よりも長い時間イメージが物質に保持されるフィルム写真に接し、触感とともに写真文化を営んできたわれわれにとって、デジタル写真の永続性をそもそも前提としないメディアを発想することは、これまでなかなか困難だったのかもしれません。痕跡を残さず、簡単に内容を消去できることは、デジタルメディアの大きな特徴です。
消滅することを前提とした写真イメージによるチャットサービスの出現、特に若い世代にサービスが受け入れられている状況は、いくつかの可能性を示唆していると思います。Snapchatの創業メンバーは、ユーザーがプライヴェートな淫猥画像を送りつける行為(Sexting)の助長を意図していないと明言していますが、こうした発言が出てくること自体、少なからぬ当該行為の存在を示していると思います。当然外部からは確認しようがないのですが(そのことが重要なのですが)、Sextingを含め、Snapchatだからこそ実現できるメッセージングの可能性が実験されているのだと思います。
これまで、一度ネットに公開されたコンテンツは一方的に拡散するのが通例で、オンラインメディアにおいては、コンテンツのデータベース化と検索性能が追求されてきました。現在のGoogleやFacebookがその典型でしょう。Facebookに代表される昨今のSNSや、SNSと連動する各種のコンテンツ共有サービスは、私たちの活動のあり方、生き方に、少なからず影響を与えています。Facebookでは、玉石混交の(基本的に世界に対してオープンな)コンテンツが絶えずフラットに流れ続けます。すべてのユーザーは、そのオープンな環境でなんらかの表現をすることを絶えず求められます。なんらかの表現ができないと、メディアにおけるアイデンティティが存在しないのも同然だからです。Facebookで十分に自分を表現しつづけることのできる人は、そう多くないはずです。また、Facebookで行なわれている表現は、あくまでFacebookの特殊なフォーマットに規定されたものにすぎませんし、Facebookのようなフラットでオープンな環境下では、どうしても制約されてしまう表現や対話の仕方も存在するでしょう。
限られた空間のなかで、しかも一定時間の後にコンテンツが消滅することが保証されているSnapchatには、今後のメディアをデザインする際のヒントがあるように思います。また、クラウドやビッグデータ全盛の昨今、気持ちよく、自然にデータを消し去るデザインを、真剣に考える時期にきているのかもしれません。Facebookのような、いわば表通りに面したメディアにおける表現は、個人の偏った考え方やいかがわしさ、公然に明かせない事項を上手に包含するような、健全な裏庭的メディアがあってこそ、より活き活きとしたものになるかもしれません。

★1──Snapchat URL=http://www.snapchat.com/

●A2

2014年夏に札幌国際芸術祭が開催されることが発表され、ゲストディレクターに坂本龍一氏が就任しました。札幌は192万の人口を抱える都市でありながら、年平均597cmの積雪があり、年によっては中央区に熊が出現するなど★2、自然ととても密接な環境にあります。「都市と自然」というテーマとともに坂本氏は、ヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」の概念を引用し、札幌・北海道の自然、都市のあり方、経済、暮らしを、アートを通じて模索することを発表しました★3。2014年の札幌国際芸術祭開催に向け、2013年は札幌の人間がそれぞれにテーマを受けとめ、実践を始動させる年になります。

★2──ヒグマ情報/札幌市中央区。
URL=http://www.city.sapporo.jp/chuo/kuma/
★3──札幌国際芸術祭2014の開催テーマ等の発表とおもなスタッフの紹介。
URL=http://www.city.sapporo.jp/shimin/bunka/sapporokokusaigeijutsusai/themamessage.html

●A3

とても答えにくい質問です。昨年末の衆院選では、原発の運用、エネルギー政策が、実質的に主要な論点になることはありませんでした。私が勤務している大学で複数の学生に訊いてみましたが、原発のことが会話にのぼることはなく、また、福島第一原発がどのような状況にあるのかについて具体的な情報を知っている者はいませんでした。マジョリティは、すでに原発に対して関心を失っているということです。私も正直にいえば、原発の状況や事故の影響について情報収集をするのは、これからやってくるであろう放射能の本当の影響に対する関心と、関東に住む家族の環境が気にかかるから、というのが動機の大部分です。しかしやはり、原発の問題は生き方に関わる問題です。引き続き、エネルギー政策の選択肢、4号機の現状、放射能の影響を真摯に検証されている研究者・メディアに注目し、知り得た情報を共有する姿勢を続けたいと思います。


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