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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

古賀崇

私は現在、広い意味での「アーカイブズ」あるいは「アーカイブ」の領域に携わっており、その観点で2012年のイベントに絞り、アンケートに回答してみたい。以下、とりあえず「アーカイブ」で統一するが、「アーカイブズ」と「アーカイブ」には厳密には、それ自体が「業務・活動の過程」を明確に反映しているかどうかの違いがある。しかしこの話はここでは措く。

今和次郎──採集講義

まず、「アーカイブ」と「都市・建築」プラス「震災」の観点で挙げておきたいのは「今和次郎──採集講義 展」であり、私は東京(パナソニック汐留ミュージアム)と大阪・吹田(国立民族学博物館)の2会場で鑑賞した。今は「考現学」を提唱し、服飾・建築・生活など幅広い領域で活動したことで知られるが、もともとは柳田國男らの民家研究への参加からその活動を出発していた。また関東大震災の直後には「バラックを美しくするための仕事一切」の実施体として「バラック装飾社」を立ち上げ、「復興」途上の都市生活のなかで独自の建築デザイン活動を展開した★1。こうした多彩な活動に共通していた点は、都市であれ農村であれ、生活にまつわるあらゆる側面を観察し、徹底的なスケッチや記録を行なったこと、あるいは建築や生活の改善のための提案やデザインをイラストやグラフなどで図示したことにあった。こうした記録こそが、まさにアーカイブの出発点と言えるだろうし、展覧会では今が生涯を通じてつづった記録やスケッチ類が集積され、まさにひとつのアーカイブとして立ち現われていた。

今和次郎──採集講義

★1──岡村健太郎「バラック装飾社」(Artwords 現代美術用語辞典ver2.0)
URL=http://artscape.jp/artword/index.php/バラック装飾社

第17回情報知識学フォーラム「震災の記憶・記録とアーカイブズ」

「震災と記録」という観点は、2012年11月4日に東京大学にて開催された第17回情報知識学フォーラム「震災の記憶・記録とアーカイブズ」(主催=情報知識学会)において、より現在の状況──東日本大震災とデジタル技術──を反映しつつ、色濃く現われていた★2
このフォーラムは幅広い観点から「震災の記憶・記録とアーカイブズ」を考える機会となった。具体的には、「3.11」当日とそれ以前・以降を記録し伝達する官・民双方の取り組みのみならず、江戸期からの震災記録から今後の震災被害の可能性を類推することや、国を超えて震災の「教訓」を継承する取り組み(インドネシアの事例)、あるいは地域社会での「継承」の意義とその困難さなどが取り上げられ、論じられた。また、映像や写真を含めデジタルな記録を集積した「デジタル・アーカイブ」のみならず、石碑のように物理的なシンボルとして震災を語り継ぐ取り組みについても紹介されており、「建築」のような「物理的デザイン」、あるいは「震災の被害を物理的に物語るもの」をいかに「アーカイブ」の一環として取り込んでいくかという難しさも実感した。なお、本フォーラムの予稿集は『情報知識学会誌』第22巻4号として刊行され、ウェブ上にも無料公開されている★3

★2──第17回情報知識学フォーラム(情報知識学会)
URL=http://www.jsik.jp/?forum2012
★3──『情報知識学会誌』Vol.22(2012), No.4
URL=https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsik/22/4/_contents/-char/ja/

山室信一「私の図書館巡歴と関西館──史料に導かれた連鎖視点への歩み」

最後に、といっても「付け加え」ということではなく挙げておきたいのは、2012年10月6日に国立国会図書館関西館10周年記念講演会として同館で行われた、山室信一教授の講演「私の図書館巡歴と関西館──史料に導かれた連鎖視点への歩み」である。山室教授はすでにさまざまな著作で、話芸・演説・大学・雑誌などの「言葉の回路」あるいは「知の回路」を通じた「思想連鎖」、またそれが日本国内にとどまらずアジア諸国に波及し、あるいは拒絶される過程を描いており、この講演ではその概要が紹介された。加えて、この講演会が図書館で行なわれたこともあってか、「思想連鎖」を支えるアーカイブ、とりわけ個人の手による「蒐集」を通じて構築されたアーカイブとその担い手の役割も描き出された。具体的に取り上げられたのは、東大に「明治新聞雑誌文庫」を築いた宮武外骨、および波乱万丈の生涯の後半を資料の蒐集と思想の発掘(安藤昌益ら)に費やした狩野亨吉などである。この講演の概要は、『国立国会図書館月報』2013年2月号に掲載予定と伺っている★4
私は上記二つの展覧会とフォーラムのなかに、「都市」「地域」「建築」プラス「震災」「復興」が交差する要素を見いだした。山室教授の講演は、これに「言葉」「知」を介した、また国を超えた「思想連鎖」の要素を加えて考えるべきとの示唆を与えるものであった。さらに、そこで「アーカイブ」がいかなる方向で作用するか、あるいは「アーカイブ」のあり方(ないし不在)がどう影響するか。そもそもこの拙稿も、上記三つの企画が「連鎖」していることを示すことができればいいが。このようなことを考えつつ、2013年の幕開けを迎えている。

★4──『国立国会図書館月報』
URL=http://www.ndl.go.jp/jp/publication/geppo/index.html
あわせて下記も参照。「山室信一氏による関西館10周年記念講演会<報告>」(「カレントアウェアネス-E」No.224、2012.10.11)
URL=http://current.ndl.go.jp/e1347


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