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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

宮口明子+笠置秀紀

●A1

風が吹けば桶屋が儲かる、としまアートステーション構想

コンセプチュアルアートやレディ・メイドというアートの手法が、都市や建築をとらえたり設計する際にも有効ではないかと常々考えていた。そのなかでMOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」展★1はその有効性を示唆する作品が展示されていた。とりわけ田中功起と森田浩彰の作品は、美術というジャンルだけではとらえきれない批評性を持っている。
森田の作品は美術館の中で起こる、些細な状況を記述する短いテキストによって、美術館の内外のすべてのディテールが、彼の美術作品のように見えてくる。まるでそれらのディテールすべてに、見えないキャプションが貼られているかのような感覚さえ抱かせてくれる。普段は目に留まらない建築のディテールが解像度を増していく。
田中の作品にいたっては、作品すらない。あらかじめメディアを通して、作品がないことは知っていたが、会場には照明もなくキャプションだけが存在する様は、まるで閉館後の施設のように見えた。その代わりに受付では田中の作品がないことを告げられ、会期中に美術館外で行なわれる彼の活動スケジュール表が手渡される。一見これはヴェネツィア・ビエンナーレの展示を控えて、忙しすぎる彼のスケジュール帳に見えなくもない。しかしこれは「時間的」なスケジュール表ではなく、「空間的」なマップだととらえることはできないだろうか。それはまるで、マップを見ながらアート作品群を見て回る地域アートプロジェクトのようである。地域アートプロジェクト全盛のシーンのなかで、美術館で展示を行なうことに真っ向から勝負を挑んだ展示のようにとらえることもできる。
同様に「としまアートステーション構想」★2における岸井大輔のプロジェクトも昨年から注目している。劇作家という立場から、地域そのものを戯曲として上演するという、一見すると壮大で、それでいて、とても地道なコンセプチュアルアートが進行中である。
彼らの試みは、都市や建築の設計者が社会的役割や合目的性に従っていては不可能な領域の設計を、じつに空間的でとても簡単にやってのけている。美術の文脈では取るに足らない手法も、現在の社会の文脈では力を持ち得ていないだろうか。

MOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」

★1──MOTアニュアル2012「風が吹けば桶屋が儲かる」(東京都現代美術館、2012年10月27日〜2013年2月3日)
URL=http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/140/
★2──としまアートステーション構想
URL=http://www.toshima-as.jp/

●A2

アーツ前橋

そんなアーティストたちの行動を横目に見ながら、私たちはアーツ前橋★3という公立美術館の設計に関わる機会をいただいている。今年の秋のオープンを控えて着々と準備が進んでいる。
建築全体は水谷俊博建築設計事務所による設計で、閉店したデパートをコンバージョンした施設である。新旧が入り交じり、さまざまな表情を見せる類を見ない展示空間が生まれている。私たちミリメーターでは、ライブラリ、ショップ、カフェの機能を持つ1階の交流スペースのデザインを行なった。いわば街と美術館をつなぐインターフェースのような、縁側のような場所だ。街と近い立地を活かすために、家具の設計や配置、構成、さらには備品の選定によって、日常空間の延長にある豊かなパブリックスペースを生み出すことを試みた。
日頃からインテリアデザインに関わる機会があると、その職能が、商業的なリテール・インテリアか、住空間のハウジング・インテリアに別れて認識されているように思えていた。どちらも市場や趣味性だけで判断されてしまいかねない、プライベートな領域を多く含んでいる。その二極にとらわれない社会性の強い「パブリック・インテリア」は可能だろうか? 趣味の道具と思われがちな家具や内装を通して、公共性や社会性を持つインテリアを模索している。

★3──アーツ前橋
URL=http://artsmaebashi.jp/

●A3

『笑う、避難所──石巻・明友館 136人の記録』

昨年末にやっと南三陸の被災地を訪れることができた。津波の襲う映像をほぼリアルタイムで見ながら、どうすることもできなかった虚無感。かといってすぐに被災地へ行くほどの行動力のない自責の念。それらが日常のどこかに引っかかっていた。ただ実際に現地に赴き、これからの復興への長い道のりを感じると、そんな私的な約2年間は小さなものと思ってしまう。
縁あって現地のキーマンとなるであろう方々にお会いできた。経済的にも精神的にも厳しい状況なのは確かだが、なぜかいきいきとした表情に見えた。SNSを通して、ヴォランティアたちとのつながりが強化され、持続されているのも印象的だった。表情はそこに起因しているのだろうか。おそらくまだ震災ユートピアの只中にいるのかもしれない。しかし、もしそのユートピア的な状況が持続可能なのであれば、それに賭けてみることが、復興の重要な要素になるのではないだろうか。私たちのプロジェクトはまだ始まったばかりだが、ここに芽生えた可能性を活かして場作りの手助けをしていきたい。
ということで、自分らのなかでまだまだ今回の震災のことを言語化するのは難しいのだが、頓所直人のルポ『笑う、避難所──石巻・明友館 136人の記録』は困難な状況で行動する人々を豊かに記述している。簡単に言い表わすと"組織ではなくネットワーク"だろうか。そう言うといかにも現代的であるが、主役はSNSでもNPOでもなく、バイク集団を率いるアウトローな男たちである。「つながり」が氾濫するなかで友情やプライドで強く「つながる」人々の姿に圧倒される。組織とはなにか?コミュニティとは何か?を問いかけるヒントが無数に散りばめられた一冊である。

『笑う、避難所──石巻・明友館 136人の記録』(集英社、2012)

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