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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

松田達

●A1

磯崎新による「中原逐鹿(Run after Deer!)」展

第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の一環として、リアルト橋近くのパラッツォ・ベンボにて、世界の建築家50人以上が参加した「Traces of Centuries & Future Step」展が開催され、そのなかで、磯崎新氏が中国鄭州市の鄭東新区管理委員会とともに「中原逐鹿(Run after Deer!)」と題した展示を、カナル・グランデに面したもっとも重要な3部屋を用いて行なった。
鄭州と開封という中国中原にある既存の2つの都市のあいだに、人口数百万人の新都市をほぼ更地からつくるという、少なくとも日本では、そしておそらく世界の他のどの場所でも、けっして考えられないような途方もない巨大規模の都市構想。ここでは鄭東新区全体の計画とともに、磯崎氏がマスタープランをつくる副CBD(中心業務地区)が、1997年のICCにおける「海市」展を彷彿とさせる方法によって展示された。
筆者はたまたま本展示に協力をさせていただく機会を得たが、複数回の打ち合わせを経て、磯崎氏による都市をめぐる縦横無尽な思考とその圧倒的な強度に心底脱帽した。同時に、このような巨大都市をゼロから本気でつくろうとする中国という近くて遠い国のパワーにもである。
見事、金獅子賞を受賞した日本館における伊東豊雄氏らによる展示「ここに、建築は、可能か」に対して、対極のスケール、対極の内容だったといえよう。磯崎氏はいわば、「いま、都市は、可能か?」を問うていた。だからこそ、2012年のヴェネツィアには、日本の建築家の可能性の両極が、同時に現われていたように思われる。

磯崎新による「中間逐鹿(Run after Deer!)」展、中央の部屋

●A2

『磯崎新建築論集』全8巻刊行

2013年2月より、ついに『磯崎新建築論集』(岩波書店)が刊行される。毎月1冊ずつ出版予定であるため、2013年中に全8巻が刊行されるだろう。各巻の主題ごとに磯崎氏の著作がまとめられ、編集協力に加わった30代から40代の建築家・建築史家らが解説を加える。
磯崎氏の思想のエッセンスに相対するのは、横手義洋、日埜直彦、五十嵐太郎、中谷礼仁、藤村龍至、南後由和、豊川斎赫、筆者の8人。磯崎氏の論考をどのように現代に位置づけていくのか。筆者自身もプレイヤーのひとりとなるが、本論集が開示する磯崎新氏の総体を、次世代の建築関係者がいかに引き継いでいくのか、2013年にその方向性が問われることになるだろう。

『磯崎新建築論集』全8巻(岩波書店)

●A3

大槌町

震災後、何度か岩手県の大槌町に足を運んでいる。筆者の所属する大学は40年以上前からこの町に研究所を有している。また筆者の所属する研究室では、大槌町の震災前の写真を集め記録するプロジェクト、震災時の逃げ道を文字に記録する試み、震災後のまちづくりコーディネーターの実践などを行なっている。さまざまなかたちで、この町と関わりを持つこととなった。震災で壊滅的な打撃を受けたこの町が、どのように復興を遂げていくのか、筆者はその忠実な目撃者のひとりにならなければいけないと考えている。そのなかで、建築家として、アーバニストとして、自分がこの町に対して何ができるのか、自らに絶えず問い続けていきたいと思う。
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