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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

土屋誠一

●A1

私も展覧会に併せて刊行された論文集の筆者の一人なので、いささか内輪褒めに聞こえるかもしれないが、東京国立近代美術館での「美術にぶるっ!」展の第二部「実験場 1950s」が、私が見た限りでは最もクリティカルな催しだったように思う。1950年代は「戦後日本」の形成期であり、今日まで続く日本社会のあり方を良くも悪くも規定した重要な時期であったことが、入念に練られた展覧会構成によって明示されていた。また、この時代に焦点を当てたことによって、結果的には、ヒロシマ、ナガサキからフクシマに至るまで、原子力という問題圏に、現実的にも比喩的にも、我々が呪縛されているということが、可視化されたとも言える。また、1950年代は、日本の国土が再編された時代でもあり、好むと好まざるとにかかわらず、東日本大震災以後、日本という「国土」とどう付き合っていくのかを考えざるを得ない今日において、多分に示唆的な展覧会であった。
「戦後日本」ということで言えば、12月に逝去した(公表されたのは2013年に入ってからであったが)写真家・東松照明の仕事が思い返される。東松の仕事は多岐にわたるが、一貫していた点は、敗戦がもたらした「戦後民主主義」と呼ばれる日本に、写真という表現媒体によっていかにして向き合うか、という問題設定であったように思う。このような問題設定において、真摯に向かい合った写真家は、東松をおいて他に存在しない。我々は東松の死を、「戦後」のひとつの終わりとして捉えるのではなく、東松の遺した仕事を通じて、「戦後日本」とは何であるのかを、改めて考えることが迫られているのだと捉えるべきであろう。

「美術にぶるっ! 第2部 実験場1950s」チラシ

●A2

「あいちトリエンナーレ2013」に注目している。五十嵐太郎氏が芸術監督を務めるこの国際展は、明確に東日本大震災後というテーマを打ち出している。震災以後の日本を、いかにして国際的に発信し得るのか、その点に注目したい。
ほか、青森県立美術館での「種差」展(仮)や、東京都写真美術館での「日本写真の1968」(仮)が、個人的には気になるテーマを掲げている。

●A3

藤村龍至氏の「列島改造論2.0」(『思想地図β』3号)が、印象深い。福島(原発)から沖縄(基地)を結ぶ「問いの軸」から出発し、国土を再編することを提案するこの計画は、そのダイナミックさゆえに目を引いた。新自由主義に基づく成長構想や、コンテンツ立国的発想、複雑な問題を抱える沖縄の基地に対する素朴な跡地利用計画など、にわかには同意しがたい点も少なくない。しかし、道州制の導入によるリスクヘッジという点は理にかなった提案であるし、コミュニティの再編成という点も重要な指摘である。しかし、なによりもその良い意味での荒唐無稽さが、今後の日本を考える上でのひとつのきっかけになる。このようなラディカルな提案が、国政においてではなく、ひとりの建築家から提示されるということは、国内においてある程度共有されている日本という国家に対する危機感の、率直な反映でもあるように思われる。この藤村氏の提案には、個々の事例をあげつらってネガティヴな批判を加えることで自己満足するのではなく、考慮に値する各自の課題として、捉えるべきであろう。

『思想地図β』3号(ゲンロン、2012)

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