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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

中ザワヒデキ

●A1

2012年で印象に残ったものとして、以下の三項目を挙げる。

1──美術家堀浩哉氏のBCCメール

「このメールは堀浩哉からBCCでお送りします。(改行)みなさん(改行)......」という出だしで始まるメールが2012年夏から毎週木曜深夜あたりに届くようになった。これは翌金曜に行われる「大飯原発を停止せよ!首相官邸前抗議」にあわせて配信されているもので、「明日もぼくらは参加します」とか「もっともぼく自身は当日大学で講評会があり行けないかもしれませんが」などと結ばれている。もっとも同氏は何年も前から自身の個展や多摩美大学教授として関わった展覧会、あるいは美術評論家の訃報に接した折などにBCCメールを不定期に配信されていたのだが、2012年6月30日のメールからは前述の抗議集会にあわせて大変説得力のある文章が定期的に送られてくることになったというわけだ。当初はもちろん集会関係に割かれる字数が多かったが、最近は、たとえば大島渚監督の訃報から始まる当事者としての昔語りがなされていてそちらも大変面白い。そういえば2003年春、イラク戦争開戦前夜に反戦デモ「反戦・アートネットワーク」(すぐに「殺す・な」と合流)を立ち上げ参加呼びかけがなされたのも同氏のBCCメールだったし、そもそも"堀浩哉といえば"1969年に多摩美術大学の学生により結成された伝説の闘争組織「美共闘(美術家共闘会議)」の中心人物であった。私自身はデモも集会も参加してはないのだが、毎週自分のメールボックス内で歴史と人物と現在と現場が熱い結節点を形成している。

2──芸術誌系弾圧機構『メインストリーム』の活動

「万国のブルドーザーよ、団結せよ!」との宣言とともに福岡のファシスト東野大地氏とダダイスト山本桜子氏により『メインストリーム』が創刊されたのは2011年9月だが、第2号と別冊『L'apl'a』(ラール・プール・ラール)が刊行されたのが2012年であり、不肖私が本誌の存在を知ったのも2012年だったのでここに挙げたい。両名とも外山恒一氏の革命家養成塾卒とのことだが、山本氏は「ダダイズムの研究」から「ダダイズムの実践」へと転じた二行経歴の持ち主でもあり、饒舌抱腹絶倒なツイートでは九州電力前に集う反対派や共産主義者、あるいはダダの本家トリスタン・ツァラまでもが一刀両断のもとに切り捨てられている。

『メインストリーム』創刊号/『メインストリーム』2号/『L'apl'a』(ラール・プール・ラール)

3──新生「新・方法」の活動

その山本桜子氏が「明晰で快活で些かの暗さもましてやルサンチもなく全く無理なく非人間的である(ように見える)」と言って、あらゆる既存の政治結社や芸術結社のさらなる上部組織であると看破したのが新生「新・方法」であった。「新・方法」は「新・方法主義宣言」の発表とともに平間貴大、馬場省吾、不肖私によって2010年に結成されたが、2012年2月18日に私の脱退と新メンバー皆藤将の加入により新生「新・方法」として生まれ変わった経緯がある。それ以後の主要な活動としては、PDF4668頁(英語版は960頁)に及ぶ「新・方法主義第三宣言」もさることながら、2012年7月7日にアノニマスを騙った「街頭清掃作戦」、あるいはかつて建設中のエッフェル塔を描いた新印象主義者ジョルジュ・スーラよろしく東京スカイツリーにいちはやく絡んだ2012年7月31日の「測量」などがある。個人的には私は、自分の脱退直前に敢行した「苦行」が本当に苦しかった。

●A2

2013年の[自身の関与するものも含めて]関心のあるプロジェクトとして、以下の三項目を挙げる。

1──中ザワヒデキ展「脳で視るアート」

2013年2月17日まで武蔵野市立吉祥寺美術館で好評開催中の私の個展である。同館学芸員の菅沼万里絵氏は「コンセプチュアルアートに疎い素人の私が、あえてこの展覧会を担当することにも意味がある」と述べている。

中ザワヒデキ展「脳で視るアート」

2──都築潤・中ザワヒデキ二人展

2013年4月、「美学校アニュアル・リポート」の主要企画のひとつとして文房堂ギャラリ--で開催される予定。図式的には都築氏はベクター派(形態/エイドス派)、私はビットマップ派(色彩/ヒュレー派)であり、「ベクターVSビットマップ」として何度も二人で行ってきた対談集の刊行も計画されている。

3──中ザワヒデキ著『現代美術史日本篇』の改訂

2008年に和英対照で上梓された同著の改訂作業は何度も再開と中断を繰り返しているものだが2013年には刊行にこぎつけたい。初版との最大の違いは、2010年前後から始まったと私がみなしている第四表現主義の動向が加えられることである。

●A3

3.11をめぐる言説と実践として、まず2012年の言説としてはA1で述べた堀浩哉氏のBCCメールを挙げる。
実践としては2011年のものとなるが、A1で述べた「新・方法」は2011年3月26日に「災害支援ボランティアへの応募」を"芸術家としてではなく市民として"いちはやく行っており、すなわち社会のために芸術は何ができるかという問いを真っ向から批判すると同時に反芸術的立場を明確にした。同様の意識は仙台で「タノンティア」というボランティア活動を実践しているタノタイガ氏にも共有されており、2012年に水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された展覧会「3・11とアーティスト:進行形の記録」への参加を一度は断ったという同氏の力強くも滑稽なブログが頼もしい。そしてこのような問題系から逆算すれば、2012年にラール・プール・ラール(芸術のための芸術)と題した別冊刊行に踏み切ったA1既出の『メインストリーム』さえ、3.11をめぐるアンチ言説として記憶されるべきではなかろうか。


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