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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

牧紀男

●A1
東京ではスカイツリーの完成が話題となったが、大阪でも高層ビルが世間の注目を集めた。大阪阿倍野に建設中のハルカスが晴れて日本一の高さのビルとなったということもあるが、大阪南港にあるWTCビルに注目したい。橋下知事(当時)が大阪府庁の全面移転先としてとりあげ、注目をあびたWTCビルであるが、東日本大震災発生時に大阪で被害が発生した建物としても知られる。現在は大阪府の咲洲庁舎となっているWTCビルでは、最上階で137cmの振れ幅(片側)が発生し、天井落下、エレベーターの長時間停止といった被害が発生した。その理由として、地盤の地震の波の特性(周期)と、建物自身がもつ揺れやすい波の特性(周期)が一致していることが原因として上げられている。東日本大震災の後、耐震性について、専門家会議で議論が行なわれ、最終的に府庁のWTCビルへの全面移転は行なわないという決定がされた。
現在建てられている高層ビルではこういった問題はクリアされており、現在の高層ビルの設計においてはさまざまな地震波を用いた検討が行なわれている。新しい技術を用いて、できるだけ高い、新しい構造形式、デザインの建物を、というチャレンジを行なっていくことは重要である(チャレンジがなければ、さまざまな地震波を検討し高層ビルの設計を行なうということも起こらなかったはずであるし)。ただ、伊東豊雄さんの「みんなの家」のデザインを見たときにも思ったが、謙虚(「正直」という言葉が良いかもしれないが)に建物の安全性、持続性という観点から建築を考えるという視点の重要性について、再度考えさせられた。

●A2
ばたばたしていて読めない本(というか買っても開けていない本)が沢山あって、何かを言えるような立場ではないが、とりあえず読めた本のなかでは「漁師はなぜ海を向いて住むのか」(地井昭夫)に非常に感銘を受けた。日本においても、家族は常に一緒にいる(住む)、ということは当然のことと考えられているが、決してそうではない、ということを、輪島の海女の家族の事例から教えてくれたことである。輪島の海女の家族では、漁の時期と漁をしない時期で、同じ家に住む構成員が変化しており、子どもたちも時期によってかよう学校を変えている。それから漁村集落のデザインについて多くの重要な指摘があるが、東日本大震災の復興にそういった点が活かされているのかが疑問。師匠の縁で、なんどか飲み会でご一緒させていただいたときにもっとお話をきいておけばよかったと反省しきり。

●A3
おどろいたことは、昭和の三陸津波後、高台移転をして東日本大震災の津波で大丈夫だった地域も、シミュレーションでは津波浸水区域となり「災害危険区域」に指定されていること。
変だなとおもった事は、「災害危険区域」に指定された地域の人は、最小5家族でグループをつくると「防災集団移転」事業で、どこか自分達が探してきた土地に行政に「集団移転地」をつくってもらって移動する、個人で移動する場合は「がけ近接地等危険住宅移転事業」で、住宅再建時の利子補給、引っ越し代をもらって移転する、というように、まち単位ではなく、個々人の取り組みとして地域の再建が語られていること。それから、確かに「等」という文字はついているが、不勉強で「がけ近」が津波の移転に使えることを知らなかった。
じっくりとよい「まちづくり」をしているな、と思ったのは岩手県の山田町。まだ「都市計画決定」も行なわれていないようであるが、住民の人たちとじっくりと話しあいながら、まちの将来・未来を含めた計画が行なわれている。
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