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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

成實弘至

●A1
2013年は瀬戸内国際芸術祭や愛知トリエンナーレなどの地方発芸術博が例年にもまして話題となり、集客の成果が謳われ、さまざまな地域博覧会がイベントとしてすっかり定着したようだ。こうした芸術博に建築家が「作品」を出すのも見慣れた光景となったが、昨年見たものでいえば、ドット・アーキテクツによる小豆島「馬木キャンプ」が印象に残っている。ローコスト、自力制作による建築を実現するプロジェクトなのだが、面白いのは、建物を建てつつも、その場所をコアとしてメディアイベントを仕掛けて村民と一緒に映画を制作したり、ミニFMを放送したり、家族写真を集めてアーカイブにしたり、動物や野菜を育てたりすることに汗をかく建築家たちの姿であった。住民を巻きこむというより、巻きこまれるというか、右往左往させられて途方に暮れたりしているのが、いわゆる「建築家」のイメージをいい意味で裏切っていて、多様な公共性へのアプローチとして評価したい。
2013年の本としては、多木浩二の『視線とテキスト』『映像の歴史哲学』が編集・出版され、建築、デザイン、メディアの単行本未収録論文が読めるようになったことは喜ばしい。多木の思想の本格的な再評価はこれから進んでいくだろうが、デザインと哲学を深いレベルで結合したその奥行きをきちんと辿らねばならない。
ファッションの分野では、ニューヨーク・ファッション工科大学美術館で開催された「A Queer History of Fashion」(http://www.fitnyc.edu/21048.asp)展をあげておきたい。残念ながら実見していないので内容についてコメントできないが、同性愛とファッションという主題を正面から取りあげた問題作であり、なぜファッションデザイナーに同性愛者が多いのか、同性愛者の服装と流行にはどんな歴史があったのか、ファッション界の長年のアポリアに焦点をあてたものだという。このテーマをどう展覧会に落とし込んだのか、これからの服飾展の方向性を考えるうえでターニングポイントだったかもしれないと思うと、未見なのが惜しい。

 

『視線とテクスト』(青土社、2013)/『映像の歴史哲学』(みすず書房、2013)/「A Queer History of Fashion: From the Closet to the Catwalk」カタログ表紙


●A2
昨年台湾でおこなわれたシンポジウムに引き続いて、今年の5月、ロンドンで東アジア・デザイン史会議が開催される(参加予定)。これは1920年代以来の日本、韓国、中国のデザインが近代化のプロセスのなかでどう展開したかを各国のデザイン史研究者が横断的に議論するもの。すでに昨年のシンポジウムでは、日・中・韓のデザイン史が同時代的な問題意識のなかで相互に影響を与えあいながらも独自性をもって発展していることが検証された。東アジアのデザイン・アイデンティティにどんな特質があるのか、さらなる議論の深まりが期待される。

●A3
非東京圏住民としては、正直それほど関心を持っていない(東京圏の人々は日本中が注目していると思っているらしいが、そんなことはないのです)。1964年とは異なり、すでに十分に人も物も金もあふれている発展過剰都市でオリンピックを開催し、さらに都市改造をしようとする意味がよくわからないし、21世紀の新しい都市経済モデルが具体化されればいいが、おそらくそうはならないだろうし。
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