.
.
  . 田中浩也+横山美和
.

1
筆者らは、10月1日より4日間に渡って「第1回ランドスケープフロンティア国際シンポジウム2002−IT時代の多様性と合意形成−」(北九州)に参加し、研究報告を行った★1。周知のようにランドスケープは領域横断的なキーワードとして近年注目されているが、今回は学術的な方面においても、基本的な問題意識と方向性の共有が図られたといってよい。そこでこの小論では、前半をシンポジウム報告、後半を筆者らの発表内容を一部紹介するという構成とし、概況の簡単な整理を試みたい。

2 
今回のシンポジウムでは,「景観」「共創」「設計」「材料」「技術」といった5つのキーワードに総勢120名ほどの各分野(建築・都市研究者にとどまらない)の著名人らが出席し、ディスカッションが行われた。かつて、ランドスケープといえば「都市景観」古くは「造園設計」が共通認識であったと思われるが、本シンポジウムではその枠が完全に取り払われたといってよいだろう。ひとつは「場や状況を作ること」そのものをランドスケープの問題と捉え,その過程を「競争から共創へ」という言葉で括ることで新たなコミュニティの構築をも同時に目指していくこと、ふたつめは空間を整えて社会との相互関係を示すことだけにとどまらず,自然や経済・文化・法整備等の問題をすべて包括的に解決すべきであることの確認である。あらゆる意味での「共存」「共生」という言葉を掲げることで、「ランドスケープ」というキーワードからさまざまな議論が派生・融合することが企画者側の意図でもあった。このシンポジウムは大きく分けて8つのカテゴリーに分類されていたが、いずれも「環境」の問題を導入として語るものが多く、解決の発端となる糸口を模索しているようにも思われた。また多くの講演者は節々に必ず「デザイン」という言葉を頻繁に用いていたが、その実の意味は多様である。特に都市のデザインに限っても、設計手法から全般で用いられるもの、あるいはエコデザイン、環境デザイン、今一度注目を浴びているサスティナブルデザインやユニバーサルデザインまで多種多様な意味が混在している。ロラン・バルトは『記号学と都市計画』のなかで、「都市は一個のディスクールであり、そのディスクールは、まさしく一個の言語活動である。都市はその住民に話しかけ、私たちは自分の都市を語る」と述べているが、今回のシンポジウムはまさに都市の様々な位相を語るために設定された場であった。
 従来、学術の世界では研究が分析・批評趣向になりがちであったが,具体的な解決案を示す実践的研究への移行が示されたのはある意味で新鮮である。これは、ケヴィン・リンチをはじめとする認知地図的なアプローチの多くが、記法としての展開に集中してきたことへの一種の反省ともいえる。それだけに、産官学や異業種の連携といった実行力のある展開は必要不可欠であり,これは学術の世界においてほぼ共通の動向でもあろう.
 一方で、シンポジウムのもうひとつの話題はIT技術と景観の融合であった。多くは合意形成や景観分析の手段としてIT技術を用いるものであったが、セッションとは別に河口洋一郎氏(東京大学)の「デジタルランドスケープ」が披露され、CG作品を背景に、日本舞踊の藤間紫穂氏が踊るといったヴァーチュアルとリアルの空間融合、ダイナミックなコラボレーションが実演された。
 最後に、大会長である岩田修一氏(東京大学)がアジアにおける環境のあり方と、そのアクションプランを「北九州宣言」として提言し,次回は2年後上海で開催されることが告知された。上海は周知のようにランドスケープ・都市デザインの大実験場として現在展開中の場所である。国内では愛知万博の開催時期にもほぼ重なるが,今世紀最初のタームとして、いかなる都市像が示されるか、いかなる実践が行われるか,注目が集まっている。

3 
筆者らは、主に情報空間デザインの立場からこのシンポジウムに参加した。情報空間のデザインにランドスケープという視点を導入した初期的な論考としては、97年に発表された「インフォメーションスケープ」(入江経一+アンドレアス・シュナイダー)がある★2。当時はヴァーチュアルリアリティーにおけるHMD(Head-MountDisplay)技術が注目された時期でもあったが、コンピュータ環境をデザインする際に、画面(スクリーン)ではなく景観(スケープ)として捉える方法は,建築と情報の融合を図るひとつの指針となったものでもある。筆者は、シュナイダー氏がユニットマスターを勤める多摩美術大学情報デザイン学科の「インフォメーションスケープ」クラスの運営に協同させていただく機会を得、今年3月にはこれをテーマとした討論会を開催した★3
 インフォメーションスケープという語もまた、さまざまな射程を含んでおり、明確な定義はいまのところ存在しない。常套的な都市の記号的分析もこの語に含まれるかもしれないし、テクノスケープ、メディアスケープといったキーワード、あるいはサイン計画や経路探索・ナビゲーションの問題も直接的に関係を持つと思われる。討論会にて筆者が提案した点は,コンピュータのインターフェイスと現実世界のランドスケープを共通の問題(デザインの対象)と捉え,人間の認知特性を足掛かりとして,両者を統一的にデザインする方策を検討すべきではないかということであった.今回のシンポジウムでは、より具体的にそのケーススタディを示すことで、さらなる議論の展開を図った。