発災から2年後における復興の課題

小野田泰明(東北大学大学院教授)

1. はじめに

発災から2年と数カ月が経過し、第一段の復興工事が各地で始まっている。しかしその一方で、低平地と呼ばれる厳しい被害を受けた場所では、その土地利用の方策もまだ決まらない状況にある所も多い。本稿では、私が知る限りではあるが、現段階における復興の課題について考えてみたい。

2. 復興の手法とその課題

さまざまな問題を抱えながらも復興は前に進んでいる。地理的・社会的・経済的な条件が異なるため、地域によってそのアプローチはそれぞれだが、乱暴にくくると下のように整理できる。


①低地かさ上げ中心型(女川町、大槌町、陸前高田市の中心街) 津波を受けた低平地を数メートルかさ上げして業務地区や住宅をその上に再生する型。中心市街が壊滅した街で採用されることが多く、大規模区画整理など大型事業が展開される。
課題:技術的には盛土の品質管理や液状化対策など難易度は高い。大規模な公共事業となり、その運用には大きなマンパワーも必要となる。一旦ゼロリセットしたうえで、広大な地盤に民間の活動を戻すことになるが、その実現のハードルも高い。

②現地建て替え中心型(宮城県石巻市や岩手県釜石市の中心街) 防潮堤などを強化したうえで、ほとんど盛土せずに現地で再生する型。市街地機能が残存し、500年から10000年に一度起こるとされている最大クラスの津波(L2)にもその被害をある程度抑え込むことができる地域で採用される。
課題:津波が来た既存市街地が活用できるようなハザード(防潮堤、バック堤)の整備と安全の確保が重要となる。既存市街地を使いながら元に戻していくので、再開発や集団建替えなど、新整備部分と既存市街地部分の組み合わせのデザインについても注意が必要。

③高台移転中心型(リアス式海岸の湾奥の集落) 想定津波高さが高く低平地をかさ上げしても間に合わないため、全体で高台に移転する型。
課題:移転地へのアクセスの確保や漁業の場所となる低平地との連携など、集落としての持続可能性には多くの懸念が存在。発災前から人口減・高齢化に苦しんできた地域が多く、発災によって拍車のかかる人口減少への対応も必要となる。

④内陸移転中心型(宮城県仙台市、岩沼市、山元町) 完全に内陸移転するタイプ。周辺に高台がなく、盛土にも限界がある平野部で採用される。
課題:現地に留まりたい住民との間で政治問題化する危険性も抱える難しいアプローチ。行政と住民の行き違いから実際にそのようなことになっている地域もいくつかある。現地再建派は、①のようなスタイルを望むことが多いが、比較的コスのかかるこの手法を展開するには、その必要性を十分に提示することが必要となる。

これまでの復興は、数十年から百数十年の頻度で襲来が予想される津波(L1)を水際の防潮堤で守った上で、最大クラスの津波(L2)は避難を主体とする者のL2津波シミュレーションにおいて2m以上の浸水が想定される場所については、居住の場としては認めない災害危険区域として組み入れるという方向で進んでいる。先に仮説的に分類した復興の型は、そうした現状における復興の枠組みに即して、それぞれが妥当と考える方向性を選んだ結果でもある。しかしながら、そうした公的な復興事業が完了した後、活力ある地域が実際に再生されていくかは、別の問題である。上の記述にもそれぞれの課題を簡単につけておいたが、それらの解決は簡単なことではない。また、こうした再生のうえで、歴史的な断絶も大きな問題である。発災直後、被災地域には半壊状態の古い蔵などが多数残されていたが、撤去に公費が出る期限が設定されてしまったために、十分な検討もなしに、あっという間に取り壊されてしまった。そのため、現地再建である②のタイプであっても、伝統的地域文化を表象し、観光の起点ともなりうるであろうそれらの力を借りることなしに、新しい街づくりを展開しなければならなくなっている。なにも取りかかりのないなかで、復興土地利用図を描くのは本当につらい作業だ。

3. 民意の調達

すでに多くが指摘するように、復興にとって円滑な民意調達は必須の課題である。しかし、前節でも見たようにその調達は闇雲に図れるわけではない。①地域コミュニティの特性の把握、②対象への適切な情報の提供、③それらを吸い上げうる適切な手法の運用、といった三者がうまくかみ合ってはじめてしっかりした移転が可能となる。このように住民参加で丁寧に設計された事例として、いまだ少数ではあるが、宮城県岩沼市玉浦西地区や気仙沼市小泉地区など、一部に光明も見えつつある。
しかしながら、こうした丁寧な住民対話が持てる事例は意外と少なく、多くの地域では、行政が実施した居住意向調査を前提条件として、高台移転の大きな方針が策定されていく。けれども復興計画に関する十分な事前情報がない状態で住民が出した答えの単純集計には、広域での再生可能性や長期的視点が欠けていることも多い。結果、要求は分散し、不便な高台移転地が増えるといった問題が発生する。難しいのは、これらはれっきとした民意であり、現場では、そのまま事業化することが善とされてしまいがちだという点である。復興公営住宅についても、これと似たような状況が生まれている。多くの自治体では、限定的な情報をもとに住民が個別に判断した結果を足し合わせた数値に基づいて、整備方針が立てられる。こうした場合、その整備数は高めに出がちであり、その後の出口戦略についての議論も難しい場合も多い。
(a)判断する側に十分な情報が提供されていること、(b)判断を請う側が合理的で幅広な選択肢を用意することといった民意を問ううえの大前提すら、拙速な判断を日々強いられている現場では顧みられないことが多いのだ。もっとも、適切な選択肢を用意するには、事前に民意聴取が必要だという被災地特有の「にわとり卵問題」も存在する。したがって、対話を何度も重ねながら民意を収斂させていくといった当たり前の方法論が、最も合理的なのである。

4. 復興計画の善循環に向けて

ここまでの記述をまとめると、復興の各フェーズで求められるワークは下のように整理することができる。

①情報提供:被災自治体は、不完全な情報提供は避けたい一方で、情報が確定するのを待っていては対応が後手に回るというジレンマを抱えるが、復興事業がうまく進んでいる地域では、不確定という条件付きながら、早期に徹底した情報提供を行なっている場合が多い。

②数量の把握・抑制:丁寧な情報提供は、被災者の自立再建を促進し、復興公営住宅の必要数を抑制することに繋がる。さらには、被災者の判断が明確になるため、その後の変動が少なくなり、その後の事業展開も進めやすくなる。

③コミュニティに対する丁寧な対応:こうした展開は一方で、復興公営住宅入居希望者を福祉サービス必要層に純化させてしまうリスクも抱えてしまう。そのような状況下では、先に全体数を抑制することで生まれた余地を活用して丁寧な対応を行い、コミュニケーションを喚起する注意深くデザインされた環境を設計する可能性にも満ちている。そうした対応は、新しく出来るコミュニティと周辺地域に存在する既存コミュニティとの連携にも繋がっていく。

④優れた設計者の調達:いくら整備数を抑え込んだとはいえ、③に示したようなコミュニティに資する環境整備を行なうには、その実現に必要技術を持ったエージェント(建築家などの専門家)の調達を的確に行わなければ実現しない。これらは、能力を評価するプロポーザルなどを介して可能となっていく。

⑤事業の管理:優秀なエージェントを調達して、しっかりした設計図書を完成させても、困難な被災地においては、それらを実現する適切な施工者の確保とその監理に大きな問題を抱える場合が多い。そうした問題を解決するマネジメントやそれに根拠を与える適切な契約方式の開発などが求められる。

⑥復興後を担保するソフトウェア:①~⑤は、復興事業を円滑に進めるためのポイントであるが、復興において最も重要なことは、復興した後に被災者が戻り、その生活が豊かなものになることである。産業の育成や環境の保全など、そこにおける課題は大きい。

もちろん、復興の現場では、さまざまな問題や課題が現在も日々発生しており、復興事業はまだ途についたばかりである。今後は、そうした共有のためのさまざまなプラットフォームを活用することで、復興計画のノウハウを広く共有し、復興に関わる貴重な人的資源や時間が蕩尽されてしまわないような留意が広く求められるに違いない。

小野田泰明(おのだ・やすあき)
1963年生まれ。東北大学大学院教授。都市計画・建築計画、文化経済学。主な著書、共著書=『せんだいメディアテークコンセプトブック』(2001)、『オルタナティブ・モダン』(2005)、『プロジェクト・ブック』(2005)、『空間管理社会』(2006)、『ネクストアーキテクト2──カケル建築家』(2009)、『モダニティと空間の物語』(2011)など。


201308

特集 復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事


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