〈唐丹地区〉〈鵜住居地区〉学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査評価

伊東豊雄+小野田泰明+遠藤新+若崎正光+佐藤功+長澤由喜子

伊東豊雄──今日は皆様からたいへん力のこもった提案をいただきありがとうございました。また、関係者の皆様にも朝からお集まりいただきありがとうございました。結果を発表いたします。
まず唐丹地区のプロポーザルから、最優秀賞は乾久美子建築設計事務所・東京建設コンサルタント設計共同体の案を選ばせていただきました。つづいて、鵜住居地区のプロポーザルからは、最優秀賞に株式会社シーラカンスアンドアソシエイツの案を選ばせていただきました。いずれの地区も難しい、特殊な地形のなかで考え抜かれた提案をいただきました。
岩手県釜石市唐丹地区に関しまして、乾久美子建築設計事務所・東京建設コンサルタント設計共同体の案は、地形に沿った水平方向に通路をとり、それを垂直方向の階段で結ぶ動線の作り方が、子どもたちが自然に集まるような全体の構成配置の展開につながっており、審査員一致で優れているという判断をいたしました。また住民代表の方から、工事中に工事車両が下の道路を頻繁に通ることをできるだけ避けてほしい、上の国道45号線からのアクセスを考えてほしいという強い要望をいただいておりまして、それに対する対策もとられた案でしたし、非常時における校舎と避難道の関係もよく解かれている印象を得ました。
鵜住居地区に関しまして株式会社シーラカンスアンドアソシエイツの案は、水平に力強く伸びている提案が印象深いものでした。校舎から駅に向って伸びていく幅広い階段は、小中学生がともに登校に使い、これから、ここから街が復興していくという期待感を住民の方々に抱かせますし、それがシンボルそのものになるということに喜びをもたらします。
今日皆さんのプロポーザルを伺いながら、個人的なことなのですが、2年前にはじめて釜石を訪れた時のことを思い出していました。その頃はまだ、いったい何をしに来たんだ、ということを言われたところから始まったので、こうやって今では釜石市がプロジェクトを立ち上げてくださって、すでに2つの復興公営住宅の設計が進んでおりますし、今日さらに2つの学校の計画が始まります。こうやって釜石市がほかの市町村に先駆けて建築家を呼んでくださった、そしてこんなに多くの建築家が惜しみなく協力してくださった。いずれも本当にすばらしく、説明を聞きながら、模型を見ながら、本当に感動しておりました。今日選ぶことができなかった方々にはなんと言ってよいのか心が痛みますが、これまでにご協力をいただいたすべてのみなさんにお礼を申し上げて本日のプロポーザルを終了したいと思います。

小野田泰明──まったく同じ印象を受けました。二社とも経験を積まれている建築家の方々なので、すでにこれからの責任の重さを感じていらっしゃると思いますが、感想、あるいは抱負をお一言ずついただけますか。


乾久美子──本日はお選びいただきありがとうございました。こうした復興事業にかかわることの責任の重さを感じておりますが、住民のみなさんと同じ気持ちでがんばっていきたいと思います。そして唐丹地区は隣接する小白浜地区、天神地区のほうで先に公営住宅の計画が進んでいますので、なんらかの連携をとって地区のためになる計画を進めていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

小嶋一浩──私たちの案を評価いただきましてたいへんありがとうございました。震災後、私自身石巻市の被災地支援に2年近くかかわっておりますが、目に見えるかたちではなにも進んでいない現実があります。たいへん辛い状況です。鵜住居地区は現在、なにもない更地になりつつあって、これから学校だけではなく街という広がりを考えていかなくてはならない、同じく難しい状況にあります。でも一方で、私たちは具体的な予算、工期等の条件のなかで仕事を始めていくわけです。私たちに課せられる責任もよくわかっておりますが、鵜住居地区がちゃんと街として再建されるように力になりたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

赤松佳珠子──今日はご評価いただきありがとうございました。責任の重さに緊張しています。学校というのは、子どもはもちろん、先生の方々、保護者の方々、そして地区住民の皆さんを元気にしていくきっかけになるんだということを、みなさんと一緒になって示していきたいと思っております。

新谷眞人──構造設計者としてシーラカンスアンドアソシエイツの案に協力するにあたって、海や山の姿と人々の生活が成す景観を生かしていく方法を私なりに考えました。その結果のブリッジ棟であり、全体の配置計画といったものが評価いただけたとすればたいへんうれしく思います。そしてこのコンセプトをよりよく実現してくためにがんばろうと思います。どうもありがとうございました。


若崎正光氏(釜石市副市長)──最優秀賞受賞のみなさま、おめでとうございます。「かまいし未来のまちプロジェクト」の第3号、4号となる今回の2地区の学校設計プロポーザルには、全国から42社の応募をいただきました。一次審査でそれぞれ5社を選定し、今日に至ったわけですが、本当に甲乙つけがたい案をいただきました。特に地形の読み取り、歴史や文化の調査、そしてなにより、地域住民が今求めていることを住民の目線で掘り下げて考えてくださっていることが、ご説明と模型から深く広く伝わってきました。今回このような機会に、行政と住民の間だけではなく、復興ディレクターの先生方に入っていただき、「かまいし未来のまちプロジェクト」のスキームの質を上げていただいたと思っております。子どもは地域の宝であり、子どもたちの元気が復興を後押しします。その意味では、2つの設計案をよりよく地域に根付かせるためにも、ぜひ住民の方々とワークショップ等の機会を重ねて意見を交換していただきたいと思います。釜石の一施設ではなく、大きな財産として、また全国に問うモデルとして大切に育てていきましょう。市とともにどうぞがんばってください。今日は本当にありがとうございました。地域を代表して、心からお礼を申し上げます。

佐藤功氏(釜石市教育委員会教育長)──子どもたち、地域のみなさんが学校再建の希望を胸に待っております。今日、釜石市の大復興にむけていよいよスタートしたという気持ちです。まずは子どもたちの幸せをかたちにするために、どうぞよろしくお願いいたします。

長澤由喜子氏(岩手大学教授)──本日はおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。全国から42社のご応募をいただき、大勢の方が復興に関わりたいというその熱意に接して本当にうれしく思っております。ひとつ気になったのは、特別支援教室の位置づけが、隔離されているようになっていたことです。今はユニバーサルの授業と言われていて、かえって差がないように、通級でも通いやすいところで差別感を持たないような配置になっていますので、その点についてご配慮いただけたらと思いました。審査を通して私も勉強させていただきました。ありがとうございました。私は主に教員養成の立場で教育にかかわっておりますが、すばらしい学校にふさわしい教員を養成しようと、改めて思っております。

遠藤新氏(工学院大学准教授、釜石市復興ディレクター)──本日はおめでとうございます。唐丹地区の乾さんの案は日常も非常時にも学校が拠点となる、よく考えられた学校だと思いました。鵜住居地区のシーラカンスさんの案は、なにもなくなってしまった地区に復興のシンボルとしても機能する学校で、どちらもこれなら復興の後押しがうまくいくだろうという提案でした。私は都市計画やまちづくりを専門としていますので、ふだんはどちらかというと「建築よ、つっ走るなよ」と抑える立場なのですが、2チームの提案を見て、もっと建築の力を信じたい気持ちにさせられました。

小野田──今日ご参加いただきましたすべての設計者の皆さんに改めてお礼を申し上げます。皆さんの存在なくしてこのような企画は成り立ちません。ありがとうございました。「かまいし未来のまちプロジェクト」の第3号、4号となる釜石市唐丹地区及び鵜住居地区学校等建設工事設計業務委託プロポーザル二次審査は、これをもって終了です。続く第5号として、街の中心部で文化会館の設計が予定されています。まだプログラムを錬っている段階ですが、秋ごろ公示を目指しております。この未来のまちプロジェクトを通じて、優れた建築家が復興の先頭に立つことで、まちづくりの姿が希望とともに見えてくるということが実証され、日本における建築文化も高まっていくとよいと思っております。今日選ぶことができなかった建築家の皆様も、そのような思いを共有いただき、これからもご協力をいただければ幸いでございます。本日はどうもありがとうございました。

201308

特集 復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事


発災から2年後における復興の課題
対談:復興のゲートウェイ──建築と被災地を結ぶ仕事
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