ユーザー・ジェネレイテッド・シティ
──Fab、GIS、Processing、そして未来の都市
──Fab、GIS、Processing、そして未来の都市
太田浩史プレゼンテーション ビッグデータ、空間情報、ポイントクラウドと建築はどのように出会うのか
太田浩史──この10年間、僕は東大で都市再生研究をやっていました。OSMのような都市の空間情報が飛躍的に整備されていくのと、パラメトリックデザインやFabLabの発展を同時に見ていて、この2つの傾向はどう交差するのだろうとずっと考えてきました。都市と建築を繋ぐ重要なフィールドだと考えていますので、少しでもヒントになるものをお見せできたら、と思っています。そうはいっても、もともと僕は空間情報にもパラメトリックデザインにも強い興味はなかったんですね。プログラミングを始めたのも40歳になってからで、都市構造について博士論文を書こうと思ったのがきっかけです。最初はC言語をやろうとしたのですが、ヴィジュアリゼーションが弱かったので、Javaをグラフィックに特化させたProcessing(https://processing.org)でコードを書くようになりました。このProcessingという言語が、Make的な傾向ともGISとも親和性が高かったので、これらの分野で試されていることに次第に興味を持つようになりました。
博士論文のテーマですが、建築をノードとするネットワークとして都市を表現し、そこに新しい建築が付加されたり、街路パターンが変更されたときに、ネットワーク構造がどう変化するかを分析するものでした。たとえばこれは銀座の建物と街路を表わしたネットワークですが、京橋と銀座1丁目で離れて開発を行った場合、その影響がどの辺まで出るかをシミュレートしたものです[fig.16]。サーバのボトルネック問題や渋滞問題のような、トラフィックのどこに負荷がかかるとどこが詰まるかという話の都市版で、ネットワーク分析用のコードを漫喫に篭もって全部自分で書きました。ゼンリンの道路中心線情報は高かったので、OSMの街路ネットワークデータを使わせていただきました。たいへん感謝しております。
- fig.16──建物ノード付き街路ネットワークの研究。銀座における建物開発の影響シミュレーション
これは学生と行なった研究で、Flickrにアップロードされたジオタグ付きの観光写真をマッピングしたものです[fig.17]。ジオタグには当然撮影時刻も含まれているので、訪問客がどのようなルートで歩き、どこで写真を撮り、何時間ほどその街に滞在したかが可視化できる[fig.18]。ここまでならば普通なのですが、データ取得用にAPIを叩くコードを実装して、その訪問客が過去にどの都市を訪れたか、その履歴を全部調べるようにしています。そうすると、このユーザーがどの国から来たか、ある程度推定することができます。例えば、このユーザーはタイの人のようですが、一般的な観光スポットしか回っていないので、より細やかな観光資源の発信が必要だということになります[fig.19]。
- fig.17──小樽の観光客の観光ルートの可視化の研究
- fig.18──あるユーザーの5時間の写真撮影ルート
- fig.19──そのユーザーの過去の写真撮影履歴
最近はポイントクラウド(点群)が面白いと思っていて、掃除機を分解していました。衛星測量にはLIDARという測定点の深さを測るレーザーセンサーが搭載されていているのですが、ロボット掃除機の「iRobotルンバ」の対抗機種にXV-11というものがあって、その衝突回避用のセンサーがLIDARとしては最も安価なのです。それを取り出してハッキングすることがごく一部で流行っているので、僕もArduinoにつないでProcessingで可視化してみました[fig.20]。使用電力も小さいので、これを使って街を計測できるかなと思って、傾きセンサーや加速度センサーを組み込んでみたのですが、前のフレームと測定点を一致させるレジストレーションが難しいのでここまでで止めました。やはりKinectのほうがライブラリが充実しているので、KinectFusionのようなProcessing用の3Dスキャナをつくろうと思っています。ポイントクラウドから面を抽出して、前のフレームの重心と重ねるところまでは来たのですが、Iterative Closest Pointというアルゴリズムの実装に少し手間取っています[fig.21]。今は設計生活が主体なので、なかなか時間が取れませんね。
- fig.20──LIDARによる部屋形状の測定
- fig.21──Kinectデータの可視化とRansac法による壁面の抽出
ポイントクラウドですが、間違いなく10年後の建築分野の基幹技術になるでしょう。僕がいた原広司研究室は集落調査をやっていたので、寸法を取り、現場で実測図をおこすということが大事にされていました。そういう自分にとって、このペンシルバニア大学の研究(https://www.youtube.com/watch?v=IMSozUpFFkU)は非常に衝撃的でした。ポイントクラウドはMakeムーブメント的なものとGISの接点にある技術のひとつのように思っています。
ここから先は設計にプログラミングを用いた事例をご紹介します。これは、くまもとアートポリスの一環でつくった小さなトイレです[fig.22]。川の土手には洪水対策で木が植えられないというので、建物で樹木をつくりました。JavaとProcessingでオリジナルのソフトをつくり、建物のパイプの角度と長さをパラメトリックに求められるようにしています[fig.23]。Processingはアフィン変換がやりやすいのが嬉しいです。
- fig.22──白川河川敷のトイレ
- fig.23──JavaとProcessingによる形状操作シミュレーション
これはバーミンガムの広場のコンペ案です[fig.24]。ガラスの広場をつくろうと思って、ダブルスキンのガラスの床で下から温める案を考えました。何人かからGrasshopperでやればいいじゃないかと言われたのですが、今はProcessingのほうが使い勝手が良いですね。Processingの物理エンジンライブラリにToxicslibs(http://toxiclibs.org)というのがあるんですが、これで懸垂曲面をつくり、いくつかの点に動きを与えて、メッシュに波紋を生成させてみました[fig.25]。メッシュはCADやレンダリングソフトへのエクスポートも簡単ですし、3Dプリンタとの相性もとても良いので、メッシュデータをどれだけ操作できるかには興味があります。また、この広場ぐらいのスケールになりますと、なにかGISやビッグデータとも関係性をつくることができるのではないかと思っています。今後も可能性を探っていきたいな、と思っています。活動の紹介は以上です。
- fig.24──バーミンガム・センテナリー広場コンペ案
- fig.25──Processingによる形状シミュレーション
- 田中浩也プレゼンテーション──デジタルファブリケーションが描く、トランスローカルのデザイン
- 古橋大地プレゼンテーション──マッパーたちが更新する、ボトムアップな世界地図
- 太田浩史プレゼンテーション──ビッグデータ、空間情報、ポイントクラウドと建築はどのように出会うのか
- 鼎談:田中浩也+古橋大地氏+太田浩史