第5回:せんだいメディアテークをめぐって
3──《福岡アイランドシティ中央公園中核施設ぐりんぐりん》
伊東──2002年から2005年にかけて設計した《福岡アイランドシティ中央公園中核施設ぐりんぐりん》(2005)です。敷地は埋立地で、もとはまったくフラットな土地だったので、地形をつくることにしました。三つの空間を連続させることになったので、捻れ捻れて2回転捻りみたいな屋根をつくろうという試みです[3-1]。
- 3-1──《福岡アイランドシティ中央公園中核施設ぐりんぐりん》
提供=伊東豊雄建築設計事務所
佐々木──感度解析と呼ぶひずみエネルギーを最小化するアルゴリズムの概要です。上段の最初の形(ステップ1)だと変形も大きいけれど、最適化手法を通して形態解析して、下段の最終案(ステップ46)ではかなり小さい変形になったことの図です[3-2]。またシェルの足元はスラストで外側に引っ張られるわけですから、足元にタイビームを入れて対処しています[3-3]。
- 3-2──最適化手法による形態解析
- 3-3──配筋の計画。下段の赤い線がタイビーム
以上2点、提供=佐々木睦朗構造計画研究所
伊東──足元部分の型枠は曲面の曲がりが大きくなるので、家具のような箱をつくってくれました[3-4]。それをベースにしながら屋根面は曲面を合板で型をつくって[3-5]、その上に配筋しました[3-6]。もうコンクリートなんか打ちたくないと思ったくらいに現場で感激するほど美しかったですね。
- 3-4──施工現場。足元部分の型枠
- 3-5──施工現場。屋根面は曲面
- 3-6──施工現場。屋根面の配筋
以上3点、提供=伊東豊雄建築設計事務所
4──《瞑想の森市営斎場》
伊東──配筋のときはすごくきれいだと思っていましたが、型枠を外してみるときれいな曲面になっていなかったところがあったので、《瞑想の森市営斎場》(2006)ではその点に気を配って再度チャレンジしました。遥かに繊細な屋根ができています[4-1]。- 4-1──《瞑想の森市営斎場》
提供=伊東豊雄建築設計事務所
佐々木──《ぐりんぐりん》と同じ感度解析のアルゴリズムにしたがって最適な形に収斂していきました。上段はまだ力学的にシェルになっていないので、大きな変形を起こしている箇所が中段ではだいぶ解消されて、下段になると自由に設計できるところまで最適化が進んでいます[4-2]。もういいんじゃないかと判断して、この状態で形を決めました。
伊東──たしか、このプロセスを60回か70回くらい試されましたよね。
佐々木──そうです。伊東さんのほうで粗い金網でモデルをつくることからスタートして、リファインしてモデルを返す。さらにフィードバックをもらって、またこちらで制約条件を満たすように調整する──これを何度も繰り返しましたね。
伊東──[4-2]の上段の青い部分の形を少しずつ修正しながら雨水がどのように流れるかも検討して、形を決めていきました。
- 4-2──最適化手法による形態解析
佐々木──これは配筋の計画です[4-3]。右側は断面です。曲面屋根の窪みになった部分の柱は、およそ20メートル毎にランダムに立っていて、そこが、ちょうど雨樋として機能するように,直径200ミリくらいの鋼管の中に樋を差し込んだ漏斗状の設えにしました。
- 4-3──配筋の計画
以上2点、提供=佐々木睦朗構造計画研究所
伊東──これが型枠の状態です。こんな複雑な型枠をよくつくってくれたなと思いますね[4-4]。配筋をしてコンクリートを打っているところです[4-5]。こういう職人さんが日本にはまだたくさんいて「俺がやってやるよ」という心意気で難しい工事も引き受けてくれます。このころから職人さんたちが自分で3DのCGを使って配筋の様子を書いて、それを手にしながら現場で配筋していくような風景が見られるようになりましたね。
結果として素晴らしい柱ができました[4-6,7]。ここで得た経験は、その後の《多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)》(2007)や《台湾大学社会科学部棟》(2013)に展開されていきます。
- 4-4──漏斗状の柱の型枠
- 4-5──施工現場。コンクリート打設の様子
- 4-6──《瞑想の森市営斎場》、屋根面
- 4-7──同、内観
以上4点、提供=伊東豊雄建築設計事務所 - 5-1──《MIKIMOTO Ginza2》
- 5-2──同、モックアップ
以上2点、提供=伊東豊雄建築設計事務所 - 5-3──施工現場。パネルをつなぎ合わせる様子
- 5-4──施工現場。溶接の様子
- 5-5──目地のない外郭構造
以上3点、提供=伊東豊雄建築設計事務所
5──《MIKIMOTO Ginza2》
伊東──次は2003年から2005年にかけて設計した《MIKIMOTO Ginza2》(2005)です[5-1]。これは鉄板とコンクリートのハイブリッドで、そのモックアップです[5-2]。鉄板にスタッドを工場で溶接して、もう片方の鉄板も現場に運びそれらと隣のパネルを溶接しながら、コンクリートの打設が繰り返されました。
佐々木──建物の高さが約50メートルで20センチ厚の外郭構造ですね。
伊東──敷地が銀座だったので夜中にしかパネルの運搬ができなくて、深夜10時過ぎくらいから、このクレーンで吊られているようなパネルを1枚ずつ現場でつなぎ合わせました[5-3]。銀座にはすごくきれいな建物が多いので、そうではなくて目地のない建物をつくって強さで勝負みたいなことをここではやりたいと思っていました[5-4,5]。
- [レクチャー]伊東豊雄×佐々木睦朗「《せんだいメディアテーク》での恊働」
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- [討議]《せんだいメディアテーク》以降|建築にとっての「強さ」
201605
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2020-06-01
