第5回:せんだいメディアテークをめぐって

伊東豊雄(建築家)×佐々木睦朗(構造家)
司会=難波和彦(建築家)

8──《カリフォルニア大学バークレー美術館/パシフィック・フィルム・アーカイブ》

伊東──2009年の《カリフォルニア大学バークレー美術館/パシフィック・フィルム・アーカイブ》は途中で経済状況が悪化したためキャンセルされてしまいました。これは非常に薄い10センチ厚の壁ということで、クライアントがびっくりしてしまうほどでした。美術館ですから壁の多い建築になるのですが、通常、壁に穴を空けて人々が通過していく、または光・音が開口を通して通過していく──そうやって内部と外部が切り分けられるのですが、この建築では水が自然に内部に流れ込んでいくような流動性をもたせたい、人々もいつのまにか流れ込むように内部に入ってくる──という空間をつくりたかったのです[8-1]
グリッドを変形させることで、人や光や音が隣のグリッドに滑り込む連続性を生み出していく。ファサードにもその考え方を適用して、薄いスラブと非常に繊細な壁を生みます[8-2]

8-1──《カリフォルニア大学バークレー美術館/パシフィック・フィルム・アーカイブ》模型

8-2──同、ファサード
以上2点、提供=伊東豊雄建築設計事務所

佐々木──一辺10メートルから15メートルくらいのセルが三次元的に緩やかにずっと連続しています[8-3]。10センチの壁厚がカーテンのように連続しているイメージのストラクチャーです。ただし上階と下階で必ずしも同じ形状ではありません。
左側が断面図です[8-4]。階高がずいぶん大きいところもあります。鉄板にコンクリートを流し込んだ10センチ厚の壁をこのように積み上げて、その座屈に対応させるにはどうしたらいいかが大きな課題でした。またカリフォルニアは地震の強いところで日本の地震の倍くらいの地震力を前提にして考えてくれと言われたので、地震力に対しては基礎免震を使って2Gという重力加速度の2倍に対応しています。そのような地震の多い土地でこんなペラペラなものができたらさぞ面白かったでしょうね。

8-3──構造詳細図

8-4──構造断面図及び構造詳細図
以上2点、提供=佐々木睦朗構造計画研究所

9──《台湾大学社会科学部棟》

伊東──最後は《台湾大学社会科学部棟》です。後ろに見えている建物は教室棟です。一番上は研究室で下に行くにしたがって教室から大教室へと変わっていきます[9-1]。真ん中の大きな吹き抜けの下は国際会議ができるような会議室です。手前の不思議な形の屋根をしている低層の建物が図書館棟です。

9-1──《台湾大学社会科学部棟》
(c)中村絵

佐々木──伊東事務所によるアルゴリズムで生成した特徴的な屋根の置き方を示した図です[9-2]。青く細いものはロッド状になった中空の柱です。この柱はFRPの型枠を組んで非常にきれいに仕上げて、内部は樋としても機能するように水が流れるようにしています。ただしこの柱だけでは耐震的に成立しないのでカーブした4枚の壁が地震力を受け持ちます。そのことがなるべくわからないように上手くデザインされています。
地下は駐車場です。駐車場として一番効率の良い8.4から10メートルのグリットになっています。1階の床には柱がランダムに落ち、上下階で柱が連続しないので、80センチ厚の中空スラブでしっかりと受け止めています。

9-2──左=構造構成・ダイヤグラム、右=柱詳細図
図版提供=伊東豊雄建築設計事務所

佐々木──これが全体を俯瞰したところで、右側に柱が鋼管だけの状態で建っているのが見えています[9-3]。そのような鋼管に漏斗状の型枠を取り付けているところと[9-4左]、それに配筋をしているところです[9-4中上]

9-3──施工現場

9-4──施工現場。鋼管へ漏斗状の型枠の取り付けと配筋

佐々木──内観です[9-5]。奥にカーブした壁が見えますね。

伊東──四箇所でしたね。

佐々木──壁のなかに鉄板が入っていて鋼板耐震壁になっています。壁の上を塞いでしまうと空間の連続性がなくなりますし、耐震要素をなるべく感じさせないように、壁の上部を開けています。

伊東──この書架は竹の集成材でできています。これは藤江和子さんのデザインで、台湾で施工されたのですが非常にきれいにできています。

9-5──同、内観
(c)中村絵



構造・構築・建築──佐々木睦朗 連続討議

201605

このエントリーをはてなブックマークに追加
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引

PROJECT

  • TOKYOインテリアツアー
  • 建築系ラジオ r4
  • Shelter Studies
  • 再訪『日本の民家』 瀝青会
  • TRAVEL-BOOK: GREECE
  • 4 DUTCH CITIES
  • [pics]──語りかける素材
  • 東京グラウンド
  • 地下設計製図資料集成
  • リノベーションフォーラム
  • 住宅産業フォーラム
『10+1』DATABASE

INFORMATIONRSS

トーク「建築の感情的経験」(渋谷区・2/19)

レジデンス・プログラムを通じてオランダより招聘しているアーティスト、ペトラ・ノードカンプによるトー...

シンポジウム「建築デザインにおいてテクノロジーという視点は有効か」3/7・新宿区

日本建築学会建築論・建築意匠小委員会では、テクノロジーの発展が建築家とエンジニアの協働にどのよう...

トークイベント 藤森照信×南伸坊「藤森照信建築と路上観察」(3/10・新宿区)

建築史家、建築家の藤森照信氏と、イラストレーター、エッセイストの南伸坊氏によるトークイベントを開...

AIT ARTIST TALK #78 「建築の感情的経験」(渋谷区・2/19)

レジデンス・プログラムを通じてオランダより招聘しているアーティスト、ペトラ・ノードカンプによるトー...

高山明/Port B「模型都市東京」展(品川区・2/8-5/31)

建築倉庫ミュージアムは、建築模型に特化した保管・展示施設として、これまで様々な展覧会を開催してき...

ディスカッション「記憶・記録を紡ぐことから、いまはどう映る?」(千代田区・2/19)

社会状況や人の営み、時には自然災害によって移ろいゆく土地の風景。いま、私たちが目にする風景は、どの...

座談会「彫刻という幸いについて」(府中市・2/23)

府中市美術館で開催中の展覧会「青木野枝 霧と鉄と山と」(3月1日まで)の関連企画として、座談会「彫...

展覧会「アイノとアルヴァ 二人のアアルト 建築・デザイン・生活革命」(江東区・12/20-2/27)

世界的建築家のアルヴァ・アアルトとその妻、アイノ・アアルトが1920年から1930年にかけて追及し...

展覧会 「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」(港区・1/11-3/22)

1928年、初の国立デザイン指導機関として仙台に商工省工芸指導所が設立され、1933年には来日中の...
建築インフォメーション
ページTOPヘ戻る