第5回:YCAMの運営に学ぶ
地域とともにつくる文化施設の未来形
地域とともにつくる文化施設の未来形
YCAMにおける展覧会と組織のつくり方
浅子──これまでもYCAMではさまざまなアーティストとプロジェクトを行なっていますが、アーティストを選ぶ基準はありますか。
伊藤──基本的には一緒にチャレンジできるかどうかで選んでいるのだと思います。
渡邉──以前、阿部さんとこのことについて話してみたことがあります。そのときには、YCAMの蓄積を活かせることが重要だという話でした。そのためにも、ディスカッションをしながら、一緒につくるスタンスも重要なってきます。また、YCAMがアーティストのキャリアの転換点になってほしいという趣旨のこともよく話していて、大友良英さんの展覧会「大友良英/ENSEMBLES」(2008)もそのひとつと言えるのかもしれません
。そのせいか制作途中でもYCAMからアーティストへの提案というのは多いような印象があります。
- fig.05──展覧会「大友良英/ENSEMBLES」より
大友良英+高嶺格「orchestras」(2008)
撮影=丸尾隆一(YCAM)
写真提供=山口情報芸術センター[YCAM]
Photo by Ryuichi Maruo (YCAM)
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
西澤──アーティストを選ぶのはキュレーターだけとは限らないでしょうけれども、チームの会議で議論したうえで選出するのでしょうか?
伊藤──僕が菅沼くんとプロジェクトをやりたいとなったら「こんなアーティストを呼びたいから一緒に企画をしないか」というところからスタートして、小さい輪のなかで「こちらよりあちらのアーティストがいい」といった話をしていくことになります。
西澤──年間の展覧会予算があるなかで、「これぐらいの規模のものを何本やろう」とか、「展覧会に偏ったので地域色を出せるプロジェクトをやろう」というようなバランスは、会議のなかでどのように決まっていくのでしょうか。
伊藤──じつはそれはいままで苦労してきたポイントです。
渡邉──直接の回答にならないかもしれませんが、山口市がYCAMのスタッフや外部の有識者とともに5年単位の中期計画を出しています。その計画に「2014年度には山口の地域性をモチーフにしたプロジェクトをやる」とか「2017年度はラボの活動に焦点を当てたカンファレンスを開く」といったようなことが書かれていて、ある程度それに沿って事業は組み立てられています。とはいえ金科玉条のごとく、その計画に必ず沿わなければならないというものではないので、細かい部分はディスカッションしながら詰めていきます。
浅子──1年単位でのワークショップと展覧会の比率はどのように決めていますか。
伊藤──事前には決めておらず、企画が出てきた段階で考えます。
渡邉──夏場にある程度の盛り上がりをつくりたいといったような公共文化施設としての要件を踏まえつつ、事業の企画をマッピングしていくとある程度年間で比率は決まってくるように思います。
浅子──企画立案は誰がどのようにしているのでしょうか。たとえばテクニカルなチームの人たちが企画出しに参加することはありますか。
伊藤──基本的には学芸普及課の企画チームが立てますが、とくに制限は設けられていません。じっさい僕がテクニカル・スタッフが主だったときにも企画を上げさせてもらっています。大切なのは発案者がそれをできるかどうかという点と、それをやるべき意義が見出せるかどうかです。
浅子──会議でやりたいことがあれば上げてみて、そこで了承されれば企画が動くということですね。
森──学芸普及課チームにいるのはキュレーターだけですか。
渡邉──キュレーターのほかにもエデュケーター、パブリシスト、コーディネーター、自分のようなドキュメンテーション担当などで構成されています。
森──ほかのテクニカル・スタッフは別のチームということですね。
渡邉──そうですね。対外的にはすべて「インターラボ」という呼称でまとめていますが、ガバナンス的には「学芸普及課」と、テクニカル・スタッフが所属する「インターラボ課」の二つに部署が分かれています。
森──企画した人がプロジェクト・マネージャー的に立ち回ることでプロジェクトを進めていくという感じなのでしょうか。
伊藤──基本的にはそうです。企画立案の時点でテクニカル・スタッフと話をして、プロジェクトごとにスタッフの配置を決めていきます。企画を立てる前の段階である程度話がされていることも多いです。組織のなかに壁がないことが当初からの特徴で、とくに現在は空間的にも定期的に席替えを行なったりしています。フリーテーブルにする議論もありましたが、それだとみんな同じ席に座りがちになるので意図的に隣の相手が変わる状況をつくろうとしました。
西澤──これまで聞いてきたなかで出てきた「プロジェクト」としか呼びようのない取り組みの話も席替えの話もそうですが、あらかじめ決められているものをそのまま受け入れるのではなく、YCAMではすべてを疑って組織をつくっているのだなという感想をもちました。
伊藤──席替えについてはコミュニケーション・コストに対する面倒を抑えるという側面もあります。たとえばほかのチームと席が離れたままだと、お互いがなにをしているのかさっぱりわからなくなってくるんです。半年に一度席替えを行なうことで、ある程度解消できていると感じています。
浅子──それは、いままでのお話のすべてに通低していることだと思います。たとえば「アマチュアのてっぺん」の話では、プロとコラボするために勉強して、とにかく話せるくらいの状態にまでもっていくことが他分野の人たちと一緒になにかをするための最低限の礼儀だとおっしゃられていましたが、そのための設えを成り立たせる仕組みとして席替えというアイデアが出てきたように見えます。
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