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114 岩面画

岩面画とは、自然の岩面に描かれた絵、モチーフ、あるいは模様です。英語でRock Art(ロック・アート)、フランス語ではl'art rupestre(ラール・ルペストル)と言います。岩面画の支持体は、古墳や構造物などの壁面ではなく、加工されていない巨大な岩や岩壁、洞窟など動かすことができないものです。ですから、高松塚古墳や装飾古墳、エジプトの壁画などは岩面画に含まれません。
岩面画は、技法別に大きく二つに分けられます。岩面彩画(ピクトグラフ/Pictograph)と岩面刻画(ペトログリフ/Petroglyph)があります。岩面彩画は、ラスコー洞窟やアルタミラ洞窟に代表されるように、顔料を使用した絵です。岩面刻画は、石器などを用いて線を引いたり、岩面をたたいたり、削ったり、磨いたりした結果できる絵です。特殊な例として、地上絵(Earth Figure)があります。地上絵は、ペルーのナスカが有名ですが、沈み彫り(Intaglio)、ジオグリフ(Geoglyph)、アース・フォーム(Earth Form)などと呼ばれるように、大地の表層を取り除き、色の異なる下層を露出させて表わされたものです。
ヨーロッパ旧石器時代洞窟壁画は、文字通り読みとると垂直な壁面に描かれた絵となりますが、実際は壁だけに限らず天井や地面にも描かれています。アルタミラ洞窟の動物の多彩画は、すべて天井に描かれています。天井の起伏を利用して、動物像のヴォリュームが表現されています。ピレネーのニオー洞窟では、壁面には彩画、粘土質の床面には刻画があります。このように、ひとつの遺跡でも、支持体の性質によって、技法が使い分けられている例が多く見られます。
日本からは北海道余市フゴッペ洞窟、小樽市手宮洞窟、山形県飛島、山口県彦島杉田、鹿児島県徳之島、韓国からは南海島尚州里、蔚山大谷里盤亀台や川前里、高霊良田里、慶州錫杖里や上辛里、浦項仁庇里、中国からは賀蘭山岩面画遺跡群のある寧夏回族自治区銀川市賀蘭口や拜寺口、滾鐘口、中衛市の大麦地、内モンゴル自治区鳥海市棹子山岩面画群の毛爾溝と苦菜溝の岩面刻画を紹介します。
岩面画遺跡の立地、環境、規模によって、絵を水平に見たり、見下ろしたり、見上げたりと、多種多様な鑑賞姿勢が求められます。写真から判断するのは難しいのですが、現地に赴かないとわからないところが、自然風景と一体となった岩面画の大きな特徴と言えます。

付記:2009年に撮影した飛島、徳之島、中国における遺跡の調査研究は、日本学術振興会科学研究費(基盤研究(A) 20242005;研究代表者:小川勝)の助成を受けたものである。
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[撮影者:五十嵐ジャンヌ(東京藝術大学・早稲田大学非常勤講師、美術史/先史学)]

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