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37 バルセロナ(バルセロナ・パヴィリオン)
1929年、バルセロナ万博の際にミース・ファン・デル・ローエが設計したパビリオン。会期の終了後解体されるが、1986年に同じ場所に再建される。残念ながら当時の石材は残されていなかったので石の模様は異なる。屋根等の構造も鉄骨からRCへと大幅に変更が加えられており完全な再現とはいえない。また、建物への本当のアプローチは裏の土手側という話も聞いた事がある。しかしながらそのような違いがあるにせよ空間は比率的に完璧に再現されており、そのバランスは一度経験してしまうとあまりにも饒舌で筆舌尽くしがたい。
そのなかでもこの建物の最大の魅力が対立する要素の積層化だ。工業生産的手法と手工業的手法、古典的要素と現代的要素、幾何学的な等分割とズレた分割、解放と閉鎖、面と線、固体と液体、透過と不透過、艶(映り込み)と不光沢、明と暗、本体と離れ(ショップ)、細部と全体などなど、挙げれば切りがないがこれらが幾重にも重なり合い、より複雑で多様性を持った、まさにバロックとも言えるほどの高密度な空間を生み出している。
もうひとつの魅力が建物を見て廻る際に次々と現われる空間の変化だ。良くできた映画の如くその小さな建物の内外でストーリー仕立てよろしく非常に多くの空間体験をさせられる。閉鎖と開放、視線の透過と遮蔽、内部と外部の切り替え、制限された移動と解放された移動、内部的な外部と外部的な内部、映り込みによる空間の拡張と消失、反転する軸線。一度では見落としてしまう。何度も廻って初めて気付く事も多い。その折り重ねられたシナリオの複雑さには舌を巻く。
対立する要素の共存。折り重ねられたシナリオ。このことはこの建物について語ろうとする時、一辺倒な解釈を許さない事でもある。この建物についていまでも多くの解釈がなされるのはそれゆえだろう。
その場を離れながらこう考える。そこで起きている事は意図的なのか偶然なのか? 出来上がったものは完全なのか不完全なのか? 思考的な混乱を引き起こしながらも、設計後70年以上も経て尚それは確かに存在している。
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○ミース・ファン・デル・ローエ《バルセロナ・パビリオン》
pic 広場側遠景
pic アプローチ外観
pic エントランスからテラスを見る
pic エントランスの柱と壁の関係/大理石の壁に映り込む柱とテラス
pic 中庭のガラスのスクリーン
pic ガラスのスクリーンと柱 [1]
pic 土手側のエントランスからガラスのスクリーンを見る/土手側のエントランス [1]
pic 土手側のエントランス [2]/土手側のガラススクリーン足元
pic 土手側アプローチからテラスを見る
pic ポーチからショップ方向を見る
pic ポーチからテラスを見渡す [1] [2] [3] [4]
pic ポーチ柱の写り込み
pic テラスからエントランスの庇を見る
pic テラスのベンチから中庭を見通す
pic 広場側エントランスからショップを見る/テラスベンチからショップ方向を見る
pic ショップからテラスの池を見る/ショップガラスの映り込み
pic ショップから壁と庇の関係を見る/ショップから土手側のアプローチを見る
pic ショップサッシディテール/ショップ壁と屋根の関係 [1]
pic ショップ壁と屋根の関係 [2]
pic テラス池の玉砂利と映り込み
pic 広場側外観
pic ポーチから見渡す
pic 土手側外観
pic 内観
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