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88 金沢

金沢には空襲と大地震がなかったおかげで、藩政期にできた都市の「型」が途切れることなくなぞられ続けてきた。
その「型」とは、金沢城を中心とした城下町の作りに端を発し、具体的にはいくつかの用水を基準にした町割りと道路、細長い町家の敷地割りから成る単線の模様のようなもので、その模様の編み目の一つひとつに、1──藩政期の建物、2──明治維新前後の近代建築、3──現代建築が混在するというのが現在の金沢の街の構造であると言える★1
よって、金沢の建物を見るときには、個々の建物の建ち方と同時に、それらが置かれている「地」の模様とも言うべき町の構造が強く意識される。実際、街中を湾曲して流れる用水や、間口の狭い町家の敷地割り、曲りくねった小道の果てに突然現われる広見など、日常生活のなかに表れる「型」そのものが、金沢らしさとでもいうべき独自の様相を呈している。
今回ここに挙げた30弱の建物の多くは、犀川と浅野川に挟まれた旧金沢市街地に位置する(金沢工業大学、中谷宇吉郎雪の科学館、石川県西田幾多郎記念哲学館、野々市町役場新庁舎を除く)。もしもこれらを訪ね歩く機会があれば、単独の建築写真では伝えきれないこの「型」を、体感していただけると思う。
最後に、人口の空洞化と町家などの老朽化が進む旧市街地では、古い建物のリノベーションに関心が高まっており、旧石川県庁舎や、北国銀行武蔵ケ辻支店、住み手のいなくなった町家を再生させる動きがあることを付記しておきたい。
撮影は主に2007年秋から冬にかけて行なわれたが、以前に撮りためておいたものも含まれる。
撮影協力=中嶋真人・西川文浩・森田雄一朗(以上金沢工業大学)・CAAK; the Center for Art&Architecture, Kanazawa
★1──2007年金沢21世紀美術館のプロジェクトとして金沢の都市調査を行ったアトリエ・ワンは、町家という都市の構成要素が、その枠を残しつつ立て替え等によって更新されていく様を「新陳代謝」と呼んでいる。
出典=『アトリエ・ワンと歩く 金沢、町家、新陳代謝』、金沢21世紀美術館、2007



[撮影者:林野紀子(林野紀子建築設計事務所)]

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