「いま世界のお金がたまたまロンドンに集まっているだけだ。私がロンドンで仕事を始めたころはプロジェクトなんて全然なかったよ」とアレハンドロ・ザエラ・ポロ(FOA)は私の質問に答えた。当サイトの 80(横手義洋氏)においてもロンドンの好景気ぶりがすでにお伝えされている。
そこで今回私は、2006年秋からの文化庁在外研修(FOA)とその後の勤務を含めて、生活者として一年半ロンドンに滞在し、そこから見えてきた建築・環境を主に取り上げることに努めた。これらは日々の通勤途中や市販の詳細な建築ガイドブック『LONDON'S CONTEMPORARY ARCHITECTURE+』を参照しながらの週末散歩、いまのロンドンを建築的側面から伝える「New London Architecture」展やOpen House London(普段は入ることができない建築を一般に開放するイヴェント)に参加し、得た情報のなかから選定したものである。
そのなかでも特にハンガリー出身の建築家エルノ・ゴールドフィンガーの建物は、時代のブルータリズムを前面に押し出した存在感と空間構成、素材の選定に至まで内外共に感銘を受けた作品のひとつだ。図らずも今回セレクトした建築群からは、先のゴールドフィンガーに代表される1960年代とガーキンに代表される2000年以降というグループが見えてきた。つまり、政治経済と密にした都市の停滞状態がその間にある。そして、ある時代性とある時代性をジャンプしたギャップが、都市を占める素地のような100年以上前の建物の中に浮き立ち、これらの対比が現在のロンドンのパッチワーク的な都市のキャラクターを生み出しているのだろう。
また、富裕層が暮らし、旅行者が徘徊するセンター地区に留まらず、再開発の名の下、オリンピック・プロジェクトやデヴィッド・アジャイの公共建築(《Idea Store One and Two》など)は、ロンドンの東部と南部に大きくグルーピングされた人種のボーダーに、建築からも一石を投じようとしている。
田辺雄之(建築家)
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