© 10+1, Okabe, Sasaki, Yamao
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■ このサイトについて
[pics] - synchronous sensuous platform
本サイトは世界中の建築作品についてのデータベースを構築することが一つの目的ですが、それを単に建築情報マップのようなものにするのではなく、実際にその場を訪れた観察者の視点で現象を捉えることによって、古今東西の建築群を新たに整理し直すことを試みています。
そこで建築に用いられている素材に着目し、観察者それぞれが9つのキーワード
合奏 、霞、ゆらぎ、触知、変幻 、艶容、消失 、鋭利、密実
を用いて、その場で感じた印象、雰囲気、記憶をデータベースとして深化させていくことを目的としました。
トリミングされた写真は、今回それぞれのサンプラーがどの部分を対象としてその場所を認識しようとしたかを表しています。つまり、"pics" は "pictures" であり "pick up" でもあります。
詳しいサイトの使い方については
<ここ>
をクリックして下さい。
サンプラーは東京を中心に大阪や名古屋などの日本各地、そして世界中に在住している建築を学び始めた同世代の人間を中心に構成されています。 2004年1月現在、日本を中心に13名のサンプラーが参加していますが、すでに参加を決めている者が海外在住の日本人以外でも数名います。
本プロジェクトでは、参加者同士が作業を通じて各地にネットワークを持つことも目的のひとつであり、定期的に参加者を募集しています。 責任を持って継続的に作業に当たれる人であれば国籍、所属は問いません。興味を持たれた方は左記の<contact>よりメールにてご連絡下さい。
このプロジェクトは岡部友彦、佐々木一晋、山雄和真の3人が発案し、メディア・デザイン研究所に対して企画を持ち込んだところから始まりました。 <サイトによせて>では3人がそれぞれの考えを述べています。併せて御一読頂ければ幸いです。
■ 使い方
1.トップページ中央部に揺らめく9つのキーワードをクリックしてから本編へお進みください。
2.各キーワードに関連した写真が画面上に表示されます。
(英語のキーワードをクリックすると英語版ページへとジャンプします。)
3. 写真上にカーソルを重ね合わせることで作品名、作家名が映し出され、その写真をクリックする ことで各建物の情報シートを見ることができます。
4. 情報シートでは、画面右側の[素材No]横の数字にカーソルを重ね合わせることで、各素材を確認することができます。また、素材写真にカーソルを重ねることで、その全体像が映し出されます。
5. 本編の上部のナビゲーションを利用してキーワード、素材、建築家別に検索することもできます。
<もどる>
■ このサイトによせて
ここではこのプロジェクトの発案、企画、監修を行った3人が、それぞれの思いを述べています。
左下の写真から各々の文章へリンクして下さい。
切り取られた対象の向こうに意志をみる 山雄和真
過去と現在にわたって積み重なった情報を整理しようとするほかの多くの試みがそ うであるように、この企画もそもそもは建築をめぐる「今」の状況を把握しようとい う試みから始まった。遠い過去からの作品群をデータベース化するという方向だけは 決まっていたものの、建築をめぐるあらゆる「歴史」の存在に、今ようやくこの世界 に足を踏み入れ始めた僕たちがどう向き合えばいいのか、ただ圧倒的な情報量の前 に、それを見定めることは簡単なことではない。空間、形式、現象、構造、切り口は さまざまあるのだろうけど、それらにすべて積み重なった歴史があるならば、そこに ただ回収されてしまわないためには、月並みな言い方ではあるけれど、結局自分が見 てきたものを信じるしかない。
誤解を恐れずに言うと、つまるところ建築というのは素材に操作を加えることで現 象に形を与える行為であるとして、今回僕たちはその素材と現象にのみ照準を合わ せ、建築を少しでも学んだ者であるならそれを観察するときに否応なしについてまわ る建築の歴史的形式性のようなものを、一旦括弧に入れて整理してみようと考えた。 対象を切り取ることによって、必然的にこぼれ落ちる全体性をそのままに、作者の深 遠なるコンセプトだとか、それを実現するための手つきだとか、建築が纏う歴史だと か形式だとか、とにかく生身の体験以外の情報はできるだけ捨象して、目の前にある 「モノ」を眺めてみること。もちろん僕たちの用いる素材はその始まりから人間によ る操作を必然的に伴うものだ。物質とは初めから操作を内包した概念であると言える だろうし、さらに言うなら現象にしたって、そもそも一つの言葉で語れるほど一定し たものではない。本質的に生の体験など、あるはずもないと言うことだってできる。 現象は物質にだけ依存するわけではなく、そのモノの成り立ち、観察者自身の経験 や、環境、時間、あらゆる要素に依存している。素材と現象は分かちがたく結びつい ていて、かつそれらはお互いを保証するものではないけれど、それでも、いや、だか らこそ、直接的で個人的な体験だけに目を向けたなら、そこに潜む「操作」が浮かび 上がってくるのではないだろうか。単なるコンストラクションの話ではなく、誰かに よって語られるもっともらしい意図ではなくて、素材と現象に潜む概念としての操作 ——それこそが建築することだともいえる——を浮かび上がらせることができるかも しれない。
異なる人間の体験を同じ言葉でまとめてしまうことの強引さは承知のうえで、まず同 世代の人間同士、そして自分自身の過去の体験を、今、ここで、共有してみよう。も ちろん僕たちのこの作業は、創造へと向かっている。「今」を把握することと、「未 来」の創造に向かって投企すること。今回選別したキーワードでは、「操作」に関す る言葉はあえて省くことにした。「操作」は「意志」と言い換えてもいいだろう。こ こに参加しているそれぞれが、この先どういった「意志」でもって創造を行なってい くか。それがこれからの僕たちの課題なのだから。
語りかけるイメージの先 佐々木一晋
建築の体験を語る際に、誰もが擬態語をよく口にしている。それは意図的ではないに せよ、物事の状態を容易に感覚的に表現しうる言葉として便利だからである。擬態語 とは物事の状態・動き・変化など、実際には耳に聞こえないものを間接的に模倣し象 徴的に言語に写したものであり、時に現象的な意味合いも含まれている。
そして、これらは語り手という主体が突出することで何らかの説明が完結するのでは なく、そこに語り手が存在した状態の特徴を表現しようとする、つまり「物質」とい う対象が「どういう状態なのか」ということよりも、むしろ「自分」という主体を含 んだ状態・状況を表現する言葉といえるだろう。それらは「かちかち」、「ぎちぎ ち」、「つるつる」というような言葉で表わされ、「ゆらゆら」が語源となり「ゆら ぎ」という言葉になる。そして、日本には数多くの擬態的言語が無自覚的に日常生活 に組み込まれている。アメリカ、欧州諸国は日本に比べて擬態語数が極端に少なく、 例えばフランスにおいては「きらきら」と「ぎらぎら」の微細な違い感覚を表現する 言語がないという。つまり、日本においては普段の日常生活のなかで状態・状況に埋 め込まれた特徴を擬態的語句で感覚的に表現する機会が多いと言えるだろう。例え ば、物事の状態を語る際には「ぬるぬるした壁」、「ふわふわした床」というこの類 の言い回しはよく用いられている。そこで「ぬるぬる」、「ふわふわ」という語彙を 使わずに別の語彙に言い換えることができるのだろうか? そこには「濡れている/ wet」、「柔らかい/soft」では同意語にはならないし、それ以外の言葉で置き換え ることも難しいだろう。これらは日本人の独自の感覚によって語られる言葉であり、 それらの言葉の背後には話し手の何らかの「想起しえるイメージ」がつき纏ってい る。つまり、状況を成立させるためには、話し相手も「ふわふわ」というイメージを 同時に想起できなければならない。一方は綿飴のような「ふわふわ」、他方は羊の毛 のような「ふわふわ」を頭にイメージしているかもしれない。お互いの経験のずれに よって「想起しえるイメージ」は微妙なズレを伴うが、この状況は成立してしまう。今後、この企画を通じて、経験に依存する「想起しえるイメージ」はどのように創出 され、どのように他人と共有されているのか?ということに着目していきたい。本企画においては、物事の状態を感覚的に写し出すような9つの擬態的言語(合い奏 でる、霞、ゆらぎ 、触知、変幻、艶容、消失、鋭利、密実)を選び出し、それらを 通じて素材と現象に関わる新たな関係概念についてのフィールドリサーチを行ない、 参加者による建築の経験をデータベースとして深化させていく。そして、これらの言 語に隠された「想起しえるイメージ」を共有するための〈感性のプラットフォーム〉 をWeb上に構築していくことを意図している。そして、今後更新・編成されていく 〈感性のプラットフォーム〉と、各自の言葉と建築の経験を重ね合わせつつ眺めてい ただきたい。
ー 序 ー 岡部友彦
建築においては、物質の形態・構成から受ける印象のほかに、物質の質感・質料から 受ける印象もまた重要な要素であるといえる。バロック期において、細かな装飾や彫刻で彩られた豪壮たる空間がカトリック教会に 高い象徴性を獲得させたように、現在、素材に属する質料が、建物の全体や部分に高 い象徴性を与えている例も多々見受けられる。現代、その効果を最も利用しているの が商業建築なのだろう。ここには、かつて宗教改革や社会的荒廃により、信仰から離 れた人々の心を再び呼び戻そうとしたカトリック的マニュピレーションのようなもの が、〈PRADA〉〈GUCCI〉〈HERMES〉などにおいて、そのブラン ド性を外部に発散するある種の誘導装置として機能しているようにも見える。
学部時代には、質料よりも形態構成についての議論のほうが、圧倒的に交わされる機 会が多いように思われる。形態・構成に言葉を与える操作は多いけれども、素材が引 き起こす現象や感覚といったものに言葉を与える操作はあまり見られない。課題のような仮想のものから現実の仕事へと対象が移り変わるにつれ、素材への関心 が一気に高まっていく。いまその移行過程にいる私たちにとって、素材から受ける印 象をどのように理解するかを考えることが後々のストックになると感じたし、写真だ けでなくその印象を言葉にしていくことが、他者と印象を共有していくうえで重要で あると感じた。
素材を触視する作業には、その時の状況、観察者の背景、社会的共通認識などが深く 関わり合っている。例えば、今回の作品のなかには、私の通っていた幼稚園が含まれ ている。小さな立方体をした形態は、打ち放しの表面にグリーンの塗料が塗られてい る。かつて私が砂遊びをしていた前庭の傍らに、まるで大きな積み木のように置かれ ていた。思い入れのない人にとっては、ミニマルでポップな作品かもしれないが、こ こで幼年時代を過ごした私にとっては、園児を見守る温かな雰囲気を感じることがで きる。このような受け取り方のずれは、実際に訪れた人と写真を見ただけの人の間に も起こりうるものだと思う。訪れたときの体験、国籍の違い等、一人ひとりの背景か ら受ける印象の違いを知ることは、私にとって興味あることだし、重要なことでもあ ると思う。
そこで、今回いろいろな人に参加してもらいたく、データづくりは13人で行なうこと になった。初回の慌ただしさもあり、メンバー同士交流する機会が十分にはもてなか ったが、今後追加データの作成や言葉の選定を行なっていくうえで、そのような機会 をつくっていきたい。また、興味ある方にも参加していただくことで、新たなネット ワークをつくっていくことができればと考えている。
■ 著作権について
本サイトに掲載されている個々の情報(写真、イラスト、文字等)著作権は、各参加者に帰属します。
また、本サイト全体も編集著作物として、著作権の対象となっています。
本サイト上の写真、イラスト等の引用の際には、左記の<contact>よりメールにて御連絡よろしくお願いします。
製作:岡部友彦+佐々木一晋+山雄和真
編集:メディア・デザイン研究所
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