地下設計製図資料集成第2回
池袋東口・西口地下街フィールドワーク

思えば当たり前のことなのだが、池袋地下街と八重洲地下街の違いは、たとえば池袋という字面を眺めたときに「ああ、池袋ね」などと思い浮かべるような、既成のイメージとしてある「ローカルな池袋」に根ざしているわけではない。このことに気づいたのは、今後の考察にとって非常に重要である。

もちろん、ひとつの都市論として東京の各部分を街区レベルで分析し記述すれば、ある程度有効な議論になりうるとは思う。しかしわたしたちは、「渋谷系」などという類別化に荷担する厚かましさも、その上で「池袋系」などとより強固なローカルさに心酔するような傲慢さも、幸い端から持ち合わせていなかった。街の名前にあらかじめ託されているイメージを反復し増幅させることなど、わたしたちは断じて選択しなかったのである。

いや、より正確に言うならば、この東西の地下街を巡ることでそのような選択をしないように「なった」というべきだった。なぜなら、このことは各自のフィールド・ノーツを回覧する中で発見されたからである。追加された田中のフィールド・ノーツを読めば明瞭だが、そこには、かねてから「池袋」を生活の一部分としてきた人間が池袋地下街を経験し直すという事件を契機とした、田中自身の判断の揺れやとまどいが直截に語られている。

わたしたちは、「池袋論」への接近という誘惑を断ち、池袋ローカルな地域性を慎重に回避してなお池袋地下街を思考するという方向に傾斜していった。言い換えれば、「池袋」ではなく、「池袋地下街」でなければ気づけないことを抽出しようとしたのである。このような思考は、瀬山の論考に結実している。ひとつの形式を発見するという結果は、滞留感漂う池袋地下街をうろうろと「漂流」したわたしたちによる、ひとつの成果(塩田に倣って「孤島」の発見とでもすべきか)と言っていいと思う。

地下設計資料集成の目次には、まだまだ書き込まれるべき余白が残っている。そしてその空白を少しずつ埋めるために次回選択されるのは、横浜駅地下街である。


フィールド・ノーツ
論考「ワンルーム地下街」瀬山真樹夫


池袋(西口・東口)地下街フィールドワーク その1


 


 

  調査データ
  池袋東口・西口地下街断面 図 15/21.03.01、15/25.04.01
調査対象:池袋東口・西口地下街

  スタッフ

狩野朋子(協力)
塩田健一
瀬山真樹夫
田中裕之
戸澤豊(協力)
山崎泰寛