2/11(日)
瀬山、田中、山崎の3人で東京最古の地下街「神田須田町地下鉄ストア」のフィールドワークを開始。文字通 り「地下街からしか入ることのできない」店がこぢんまりと立ち並ぶ、実にコンパクトにまとまった空間。壁面 のタイルの意匠や、窓のサッシがアルミではなく木製だったりと、要所要所に時代を感じさせるディテールがあり、かなり興味を惹かれる対象。内装の改修なども数多く行なわれているようであり、さまざまな痕跡が残されている。 その後、塩田と合流して東京駅から「八重洲地下街」に入る。 こちらは、須田町とは比べ物にならないほど広く(東京都地下街リストで延床面 積が最小のものと最大のもの)、また、全体がかなりきちんと計画され意匠なども統一されているので、須田町を見るときとは全く違った視点を用意せざるをえないという印象。(瀬山)

神田須田町地下鉄ストア

 


0211、日本最古の地下街「神田須田町地下鉄ストア」に潜る。(田中)

 


14:00から神田須田町地下鉄ストアを調査してのち、秋葉原を経て、東京駅に移動。
東京駅八重洲地下街、17:00、外の天候は晴れ。
●神田
・前日に「駐車場が存在」する「地下からしかアクセスできない場所」だけが地下街と認定されると聞いていた。昭和32年以前に成立していた地下街は、あくまで「例外」として認められているとのこと。行政上は、駐車場、地下道、店舗、その他という用途カテゴリーで把握される。経営主体も八重洲ができてからは駐車場管理会社が多い。
・昭和7年に開業した日本最古の地下街、神田須田町地下街には確かに駐車場などない。
・JR神田駅1階から接続される階段の天井は1.7メートル。当時の身長から算出されたのだろう。長身の田中はまるで洞窟に侵入する趣き。頭上からは「天井が低くなっております、ご注意下さい」とアナウンスが聞こえる。
・地下鉄ホームを挟んで南北にそれぞれ地下通路がある構造。地下街は、北側通 路の一部である。延床面積144平方メートル。
・ 東京都の資料によれば、平成7年3月31日時点で7店鋪あったとのことだが、当日は6店鋪のみ確認。休日のために閉じられた雨戸(地下だから違う名称のはずだけど)から覗くと、店舗内の日めくりカレンダーが前日を示す。現在路上に看板を出すテーラー、帽子店、靴屋は営業中らしい。
・開業中の店舗は六つ。1000円カットの理髪店、美容室、歯科診療所と前述の3店舗。
・当日営業していたのは理髪店のみ。従業員の男性59才にお話を伺うことができた。彼の知る限り、東京オリンピックの頃が最も店舗数が多かったとのこと。現在の店舗のほかには、時計屋、スポーツ用品店、掛軸屋(!)、代書屋、判子屋(両者は共存か)などがあったという。なんとなく雑誌『東京人』を想起する。靴屋と歯医者(現在2代目)が最古参とのこと。話振りから、営団とは微妙な関係にあるような印象を受けた。
・八重洲への道すがら、この企画の最後にもう一度詳しく神田を見たいと思う。複数の地下街を貫く視線はありえるか。
●八重洲
・東京駅八重洲北口から、東京駅名店街を経て八重洲地下街へ。この二者は別の地下街。いや、東京駅名店街は駐車場を持っていないので、行政上は地下街ではない。一般 利用者にはほとんど関係ない話。
・地図は逆T字だが、地図上の左側が北。1-6の植栽のある場所はノーススポット、36-42はサウススポット、59-62はイーストスポットと呼ばれる。そのまんま。 歩いてみると、予想以上に広くて疲れる。サウススポットからノーススポットまでは徒歩で10分近くかかった。
・衣料品店が多い地図上の中央部では、両端よりも若干床が高い。
・名称のある通りは5本。外堀通りの直下を3本の通路が平行している。西側(東京駅側、24がある通 路)から、オリーブロード、オレンジロード(29のある通り)、フリージアロード(26-28)。八重洲通 り直下には65のあるローズロード、66のあるレモンロード。命名の基準がよくわからない。
・植えられている(正確には置かれている)植栽は、葉が細くて薄く、概して高さがある。もともと葉が大きくならないようなものが選択されているのか、それとも、インテリア用の観葉植物とはおしなべてこのようなのか。(山崎)

神田須田町、遠くに理髪店の
「徴」が見える

同じく神田須田町、おい
しそうなファサード

 

東京八重洲地下街レモンロード

 


 初体験、である。僕にとって地下空間とは、極めて日常的な場なのに。地下街を空間認識の対象として積極的に観察したことなど今までにない。  一般に空間の成立要素を機能と雰囲気(デザイン・様相)に大別するなら、今日まで地下において僕は、後者に目を背け、前者しか享受しようとしてこなかった。つまり、地下を利用した時間の空間的経験・記憶だけはいつもぽっかり抜け落ちている。故にその前後で時間の連続性は途切れている。一種の“ワープ”に近い。そこは閉塞感と利便性が並存する、都合のいいだけの存在だったようにも思う。単なる移動手段、近道。雨の降らない商店街。  だがよく見ると、地下空間にも多くの人々の営みがある。サービスする人、される人、素通 りする人……。彼らはとりわけ植物系の自然に対する憧憬が過剰のようだ。明らかなフェイクも含め、随所に挿入されている歪められた“緑”がどこか侘しい。投げやりにも見える。これらは人間の予想を超えた成長も繁殖も一切見せない「自然」。すべて人為的コントロールのもとにある。超・人工的空間における免罪符か? そんな「地下緑化」がいかなる条件、環境、管理の上に(下に?)成立しているのだろう。さぁ、陽のあたらない都市で、即席自然観察者を演じてみよう。(塩田)

 


2/12(月)
 ノーススポット周辺から植栽の撮影と位置のプロットを開始。基本的に、ショーウィンドウや店舗内部の植栽は撮影対象とはせず、通 路部におかれているもののみを撮影し、その位置を地下街の入口で配っているガイドマップに書き込みながら歩いていくという方法を採る。 各広場を除けば、思ったよりも植栽は少なく、本日の撮影枚数は51枚だった。また、あからさまに装飾用として用いられている植栽の中には一部イミテーション(造花)のものがあるが、9割方は本物の植物。サウススポットとノーススポット(つまり、地下街の南端と北端)にそれぞれ「グリーンインテリア」という名前のフラワーショップがあり、そこが広場の植栽を管理しているようだ。(瀬山)
 

 


2/15(木)
 植栽の撮影とマッピングが全領域終了。写真は前回撮影分も含めて70枚程度になる予定。 ところで今回、カートにベゴニアの鉢植えを積んだおじさんが、そのカートを押しながら鉢植えを交換しつつ歩いているという風景に出くわした。おそらく八重洲地下街の植栽の中には、各店舗が独自に管理している物だけではなく、公共のものがあり、またそれらの植栽を管理している機関に相当する物があるのではないかと思われる。

 八重洲地下街は2層になっており、2層目が駐車場になっているのだが、その駐車場は西駐車場と東駐車場に分かれており、これら駐車場の間に高速道路(首都高4号線)が通 っているという事実を知った(つまり、平面図で見るところのフリージア・ロードの下はスラブ1枚隔てて高速道路になっている)。また、駐車場はそれぞれ、上りと下りに対応して高速に直結している。つまり八重洲地下街はじつはインターチェンジでもあったわけだ。高速と直結した駐車場というのは結構めずらしいのではなかろうか。
 ところで、ここの風景は 「まるでスペースコロニーのようだ」という話で田中と盛り上がる。 その後地下駐車場で(まるで『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツのような)カウンタックを発見し、また大盛り上がり。
 そういえばアムロは、サイド3で雨に降られたとき「まったく、天気の予定表くらいくれればいいのに!」と言っていた。つまりそこでは天気も計画の範疇にあるということか。まったく地下街はスペースコロニーのようではないか。(瀬山)


ランボルギーニ・カウンタックat八重洲西駐車場

 

0215 、八重洲地下街の地下駐車場にはなぜか高級車が多い。
一番の発見はランボルギーニ・カウンタック!(田中)

 


2/16(金)
0216、地下街を俯瞰することはできない。なぜなら、そこは、閉じた空間だからだと、ふと考える。(田中)

 


2/20(火)
0220、地下関係で映画を2本観る。『サブウェイ』(1984、仏)と『タイムトラベラー』(1999、米)。前者は有名だが、後者は、生まれてから35年間地下(核シェルター)で過ごした主人公が、地上で繰り広げるドタバタ・ラブコメディ。あまりおもしろくなかった。(田中)

 


2/21(水)
0221、来週からのアフリカ行きのため八重洲の検疫所で予防接種を受けたあと、八重洲地下街にもぐる。昼夜の演出をする地下街ってあるのだろうか? でも、それってテーマパーク的な考えかな……。(田中)

2/22(木)
 地下街の中にあるフラワーショップの店員さんに話を聞くことができ、植栽の種類や管理者等についての貴重な情報をいただいた。予想通 り、この地下街の通路に置かれている植栽は、ほぼ全てこの店によって管理栽培されているとのこと。植栽はほぼ毎日メンテナンスされ、季節などによっても随時入れ替えられている。植物は主に棕櫚竹、ドラセナ、アレカ椰子、アグラオネマといった観葉植物。全部で10種類弱といったところ。鉢植えの花は保ちが弱いので、随時交換している。しかし、20年前と今では蛍光灯の性能が大きく改善されたことで、植物の保ちも比較にならないほどよくなったらしい。(瀬山)


地下街入口