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  . 田中浩也+横山美和

Fig.8= Mac-OSにおけるエイリアスを用いた多重グルーピング

Fig.9= 実体の専門学校から分離して設置された看板(リンク関係)

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東横線沿線には奇妙な集合住宅がある。集合住宅そのものは何の変哲もないものだが、その最上階に、ある専門学校の看板が設置されている。実際の専門学校は別の場所にあるが、通行者は一見してこの集合住宅を専門学校と錯覚する。ここに、看板のコピー&ペーストを用いた新たな現象が起こっている。MacintoshOSにおいて、「オリジナルと同様の視覚像を持つアイコン」(すなわち分身)のことを「エイリアス」と呼ぶ。WindowsOSでは同等の機能が「ショートカット」と呼ばれている。この機能を用いて、ユーザは自分のファイル群を多重にグループ化することができる。このようにしてユーザ自身が自分なりのコンピュータ環境を整えることは「カスタマイゼーション」「パーソナライゼーション」等とも呼ばれている。
 この観点からいえば、上記の現象は、都市に多様なエイリアスを配置していく一種の営業戦略ととれる。近年「実際そこにはない」店舗に関する看板が、別の場所に一同に集められるという現象は多発している。上記の場合には集合住宅を「見立ての専門学校」として、看板がそこに寄生することでより大きな効果をあげているといえる。このように、現代の都市は個々に編集されたデスクトップが幾重にもレイヤー状に積み重なった状態とも捉えられよう。いくつもの実体—分身関係がそこに仕掛けられ、複数のデスクトップが互いに影響することでまた新たな意味効果が形成されている[fig8〜9]

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筆者らはシンポジウムにおいて、インフォメーションスケープに関する現状報告と、それを踏まえたデザインの基礎的な考え方を提案した(本稿では分析の一部を説明したが、デザインへの展開などについてはまた別の機会に譲る)。筆者らの参加したセッションでは、災害時の避難場所の立地関係をグラフ理論を用いて解析・デザインするなど、関連のある研究発表が集められた。そのようななかで、風水・地名を用いたランドスケープデザインの発表があった★7。セッション後にもさらに議論を行う機会を得たが、それらの理論は、与えられた環境に事後的にいかに豊かな意味づけを行い、集団によるカスタマイゼーションを実現するかという点に最も有効性があるという。これはインフォメーションスケープにも通じる点が多い。先に、現代の認知的特徴は高密度の情報を持つ景観のみをリンクで辿っていくことにあると述べた。しかし、一見低密に見られる景観にも豊かな情報が内包されていることは言うまでもない。そのような情報を分かりやすい形で暴き出し、それを流通させていくことは,現実のランドスケープに新たなレイヤーを積み重ねていくことに他ならない。新たなレイヤーは,もはや出版メディアのみならず、HMDや携帯電話等を用いて、より直接的に現実のランドスケープ(ある場所、ある位置)へと重合させることができる。商業化が進む現代のランドスケープにおいて、それを別の意味へと転移させることに意義を見出すならば,その方法としては、ひとつには現実の小さな「スキマ」からその周縁へと全体を統制していくこと,もうひとつには、新たな解釈を与える情報のレイヤーをデザインしていく方法があると思われる。筆者は、特に後者の手法について関心を持っている。そのための意味共有の方法,そして実現方法としてのIT技術について、今後も考察と実践を進めていきたい。さらなる報告については、また次の機会に詳しく述べたい。

★1—— http://www.race.u-tokyo.ac.jp/~chiaki/DAVINCI/keikan/2002.htmlこのシンポジウムにおいて、筆者らは論文「An Analysis of Urban Landscapes byusing Hypermedia Patterns」を発表した。
★2—— SD9704 「拡張するデジタルデザイン」鹿島出版会 収録
★3—— http://www.double-takes.net/conext/event.html
★4—— 「個室化される都市——近未来のシティスケープ−」『ランドスケープ批評宣言』landscape network 901編、INAX出版、2002年、pp.172.他に森川氏の論考としては、『10+1』24号、25号収録のもの等を参考にされたい。
★5——森川氏『10+1』24号、25号論考。
★6—— http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/
東氏の論考に関しては、『不過視なものの世界』朝日新聞社、2000年『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』講談社、2001年等を参考されたい。
★7——「A Case Study on the application of the Feng-Shui in Haman(Korea)」(Kyungwan KIM and Koichi NAKAMA, Kyusyu Institute of Technology,シンポジウム論文集収録)その他、風水は97年の「海市-もう一つのユートピア(磯崎 新)」を発端として「Any」シリーズ(NTT出版)でも盛んに論じられている話題である。また、地名の効果に関しては『10+1』29号収録のナンシー・フィンレイ氏による論考も参考とできる。