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特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<木内俊克
第3回G20サミットはゼロ年代の動向を象徴するひとつの出来事だったように思う。G8に代わるかたちでG20が国際経済協力のためのもっとも主要な協議の場になるというニュースを耳にし、主要発展途上国が名実共に国際社会のなかでの地位を確立したこと、同時に欧米中心の世界構造が変わりつつあることを実感した。一方、日本国内では地方分権化の動きや、上記のG20直前の出来事であった脱官僚をうたった民主党の勝利、それにともない対米政策への見直しの議論が起こってきたことなどが印象深い。
これらの動向を振り返り改めて思うのだが、「多様化・多極化」と呼べそうな傾向が、ゼロ年代を通して繰り返し現われてきたように感じている。中心を持たないバラバラな「個」の集まりが、対等かつ多様であることを前提にしながら、なおバランスがとれた全体として共存・発展していけるシステムがいかにして可能か。そんな問いが、国際社会からデザインの現場の細部まで、スケールを超えてフラクタルに現われてきているような感覚、とでも言えばよいだろうか。
個人的ではあるが、以下にその傾向を印象づけたいくつかを簡潔にメモした。
Swarm intelligence/ Self-organization
いずれも、80年代後半から90年代にかけてすでに紹介されていた概念のようではあるが、建築の分野で盛んに話題に上るようになったのはゼロ年代に入ってからであったと思う。Wikipediaなど、Web上ではすでに同概念を反映したシステムが運用されており、計画という概念を刷新していくうえでより重要性が増してきていることは誰しも認めるところではないだろうか。
おそらくは、こういったローカルな領域から展開するロジックにしろ、既存の計画概念にみるトップダウン型のロジックにしろ、それぞれが閉じたシステムにとどまるのではなく、複数のシステムが衝突しつつもそれを軟着陸させていくような新しい均衡がこれからの世代の関心事になってくるのだろうと思う。
Grasshopper/ generative modeling for rhino(2007〜)
比較的安価であることや国際的なユーザーネットワークをベースにした頻繁なシステム更新により広く普及している3次元モデリングツールであるRhinocerosのプラグインとして開発されたプロセデュアル・モデリング・ツール。(CG系に多用されるHoudiniと比較すると未発達ではあるが)普及度の高いRhinocerosをベースにすることで、プログラミングの知識をもたないCAD系のデザイナーにパラメトリックな視点/手法を提供するフォーマットとして、またより高度な幾何学的処理を操るプログラマーとのコミュニケーションフォーマットとしての展開が興味深い。
Building Information Modeling
昨夏に日本でも「a+u」の別冊として特集されたBuilding Information Modeling Systemは、建築物の設計からライフサイクルマネージメントにおよぶ大量な情報処理/共有の効率化を着実に押し進めており、注目度が高い。作業環境のよりラディカルな軽量化と広範囲への普及が待たれる一方、不確定要素を包含しながら漸近的にモデルを構築しうるような拡張性を今後多いに期待したい。多矛盾系(2008)
内藤廣が、2008年に出版した『構造デザイン講義』のなかで、構法を優先させ軸力線が交差しないという矛盾を前提として受け入れていく木構造を指して用いた言葉。矛盾をなくすことを目指す近代的システムではひとつの矛盾が全体の崩壊につながるが、多矛盾系では、小さな矛盾が互いに均衡をとり合うことでより受容力や冗長性の高いシステムがつくれるであろうという指摘。かつて吉阪隆正氏が「不連続統一体」と呼んだ概念を彷彿とさせ、建築構造のみならず、対立する要素を同時に取り扱うあらゆるシステム一般に拡張できる可能性を感じさせる。
景観法(2006 施行)
2005年より人口減少期に入った日本だが、一方で都市部の人口は増加し続けており、地方の疲弊と裏返しに都市部での過剰な開発は加速している。この流れを見据え、2006年に施行された景観法により「個性的で活力ある地域社会の実現」★1が国主導で動き出したこと、対応して多くの地方自治体で景観に関するローカルな合意形成をつくる動きが活発化し、現在まで進展を続けていることは注目に値する。日向市駅(2008)
総括監修・篠原修、意匠統括・内藤廣の二人が、多分野の技術者、地方自治体、国交省などとの連携を保ちながら、10年の歳月をかけ、街づくりの一環として完成に導いた駅舎。地場産の杉材を用いたプラットホーム大屋根に結実したように、地域ごとの潜在的な力をいかに育てていくか、その具体的なあり方を実践した事例。roundabout journal(2007〜)
藤村龍至を中心に展開されている設計プロセスに焦点をあてた議論が、現代的なテーマをあぶりだしている。デザインの現場を政治的な力学の場としてとらえ、いかにして情報が蓄積/共有/運用されるかが極めて重要なファクターであり、それがデザインが関わる地域のローカリティを形作っていく、といった議論は示唆的。開放系技術(2001)
石山修武が2001年に竣工した自邸《世田谷村》をモデルに提唱した、施主が建築工事の分離発注主となる住宅生産を核にした技術的枠組み。コストコントロールの実践的なガイドであるとともに、ネットワークやシステム論に偏りがちな現代において、個のあり方としての「自由」をいかに最大化しうるかに焦点をあてている。『0円ハウス』(リトルモア、2004)
2004年出版の坂口恭平の写真集。「絶えず運動と変化を繰り返し、秩序とずれが同居している」★2セルフビルドの家の数々が坂口氏による写真を中心に収められている。明快に提示された、個とともに運動しつづける自己組織化された建築のあり方は説得力をもって語りかけてくる。- 『a+u臨時増刊 Architectural Transformations via BIM──BIM元年:広がるデザインの可能性』/『構造デザイン講義』/『0円ハウス』