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特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<

鷲田めるろ

『歩きながら問う──研究空間「スユ+ノモ」の実践』(金友子編、インパクト出版会、2008)


ソウルの研究者コミュニティの活動を日本語で紹介した書籍。
この10年間、日本の都市と建築について考え、実践する際、以下の3点が自分にとっての課題でした。
(1)都市や建築をつくる主体をどのように形成するか
(2)少ないお金でも、いかに自立して、文化的に豊かに生き延びるか
(3)地方都市のメリットをどのように活かすか

(1)については、大きな行政と建築家のような専門家でもなく、家の持ち主のような私的な使用者でもなく、その中間の、開かれた小さな自主的で、互恵的なグループが、都市や建築を豊かにする主体となるという立場から、そのグループをいかに形成、維持してゆくかを試みました。路上を含む「スユ+ノモ」の活動はその指針となるものでした。(2)については、行政でも、個人でも、経済的な活動が停滞し、雇用の機会も少なくなる状況を背景として、それに左右されることなく、文化活動と社会的な関係を継続してゆくための工夫が、豊かな都市と建築には必要だという考えに基づいています。交代で調理し、原稿料など臨時収入を得た人が出資し、言語や専門知識をお互いに教え合うという方法により、お金をかけずに自由で文化的な活動を継続している「スユ+ノモ」から学ぶべきことは多くありました。(3)については、家賃が安い、地域のコミュニティが存続している、個人や小規模なグループの活動が都市に直結するという点が、地方都市で活動することのメリットだと考えています。上記のような活動は、地方都市でこそ活かされるといえます。
日本におけるこの10年間の都市や建築を振り返る際、経済状況の停滞や、安さのみのグローバル化した経済に曝されずに、地方都市を拠点に文化的な活動を継続する芽を育ててきたことを、次に繋がる可能性として認識すべきだと考えています。「スユ+ノモ」は、そのためのよいモデルでした。

『歩きながら問う』

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