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特集:201101 2010-2011年の都市・建築・言葉 アンケート<

光岡寿郎

都市の芸術文化環境はどのように変化していくのか?


2010/2011年の極めて短い期間に限定して、なにか新しい時代の胎動を感じるのはなかなか難しいものである。そこで今年度は背伸びをせず、この一年間に僕自身が関わったプロジェクトのなかから二つの事例を取り上げてみたい。

○「劇場法」と地方都市

僕は今年4月から縁あって早稲田大学演劇博物館で仕事をしているのだが、最初に扱った仕事が「劇場法」を巡る平田オリザ氏のシンポジウムだった。劇場法に関しては、平田オリザ氏、芸団協、個別の劇団の間での議論が未整理に留まっている点。また、舞台芸術における人材育成や文化・芸術の公共性といった論点の重層性など扱いが難しいのだが、2010年の舞台芸術の領域では一番大きな話題だったのではないだろうか。ただしここで取り上げたのは、劇場法の背景には、東京と地方都市の間での芸術環境の格差の問題が存在しているからである。少なくとも、僕が参加した平田氏の講演のなかでは、日本各地の劇場を公的資金の受け皿としそこに若手の芸術監督を起用することで、東京に集中していた舞台芸術の創作・公演を地方にも循環させるという意図がはっきりと表われていた。その意味では「劇場法」の一連の議論は、地方都市においていかに持続的に芸術の創造・受容の環境を生み出すか、そしてそれは実際に可能なのかという現在の課題を提示していたと言える。

○都政と「東京」のリストラクチュアリング

一方で、今年関わった仕事のなかで一番幸せだったのが、今秋に東京アートポイント計画の一環としてNPO法人のアーツイニシアティヴトウキョウが開催したTokyo Art School 2010。7回に渡ってアーティストから社会学者に至る多様な講師によるレクチャーと、僕ら若手研究者と受講者のセミナーを通じて、東京で新たなアートプロジェクトを生み出そうという講座だった。実は、この東京アートポイント計画自体、東京都の東京文化発信プロジェクトの一部として運営されている。このアートポイント計画は、この10年ぐらいのあいだに「東京」という極めて曖昧で広大な圏域に潜在的に成長し始めていたクリエイティブな生活空間を再ネットワーキングしていくような志向性を持っている。同様に同プロジェクトの一環であるフェスティバル/トーキョーが祝祭的な性質を帯びているのとは対照的に、東京における持続的かつ日常的な芸術環境を支えていこうとする意志を感じる。

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Tokyo Art School 2010の様子
撮影:越間有紀子

もちろん、仮に劇場法が制定されたところで地方の舞台芸術の環境が劇的に変化するかどうかは不透明だし、東京文化発信プロジェクトに関してもその客観的な評価には最低でもあと5年のスパンは必要だろう。ただ、今年の愛知や瀬戸内に限らず芸術祭が日本各地にいい意味で飽きるほどに拡がっていった事実も考慮すれば、2010/2011年は、ひょっとすると、取るに足らない生活の一部として「アート」が都市へと溢れていくきっかけとなる年になった/なるのかもしれない。
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