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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

南泰裕

●A1
この地震について、繰り返し考えさせられるのは、私たちは「どうにもならない出来事」を前に、いかにして希望と自由を語りうるか、ということです。言い換えれば、スピノザが『エチカ』において肉薄しようとしていた問題の内側を、改めて、どのように生き直せばよいのか、ということでした。
さしあたって、この地震後の状況に対して私がなしうるのは、「できることを、できるときに、できるところから始め、継続する」という心構えを持ち続けることであると考えます。
この地震について、多くの人がさまざまな活動を行なっているので、個別に注目している計画や特定のヴィジョンを挙げることは、できません。著名・無名を問わず、どのような試みや行為や思考も、それぞれに意味と意義を持っているはずです。

●A2

地震直後の3月12日から、京都国立近代美術館で開催された「パウル・クレー」展は、騒然とした状況のさなかでの展覧会として、記憶に残ります。
また、今年の最後を飾るように11月から名古屋市美術館で開催されている「ジャクソン・ポロック」展は、今後二度と日本での開催は困難だろうと思われるほど、貴重な作品が一挙に集められ、充実した展覧会でした。
これらの抽象画家たちが描き出した世界が、地震の後の世界の現われと、不思議に重なってくるように思えます。

妹島和世さんが設計した《SHIBAURA HOUSE》は、都市のさなかに新たな抽象空間図式を挿入し、これまで触れたことのない空間の気配を現出させていて、不思議な感覚を受け取りました。
その《SHIBAURA HOUSE》において、UIA東京大会2011の関連イベントを開催させていただいたことは、貴重な体験となりました。

今の時代にあって、書物が、本来的な書物としての意味に貫かれて存在している貴重な事例として、『山田幸司作品集─ダイハード・ポストモダンとしての建築─』を挙げることができます。
2009年に事故で急逝した建築家・山田幸司さんのこの作品集は、南洋堂書店のみで限定販売されているものですが、言葉の編み物が、どの部分を紐解いてもひとつひとつに熱と力と哀しみを帯び、届けられるべき人に言葉が届いています。このことは、今となっては希有な事態であるでしょう。その意味でこの本は、山田幸司の死という不幸をかけがえのない言葉へと昇華させ、逆説的に書物としての「幸せ」を体現しているように思えます。

●A3
現在進行中の、伊東豊雄さんによる、台湾の《台中オペラハウス》は、完成すれば現代建築の新たな位相を開くのではないかと思います。
また、2012年に開催される予定の、越後妻有アートトリエンナーレや韓国の光州ビエンナーレも、気になります。
しかし明らかなのは、2012年は戦後の記述と同じように、震災後1年として記述される年だということです。
長い時間をかけた、長期的な未来を遠望したリコンストラクションの方法論が、より鋭く切実に問われる年になるのではないでしょうか。
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