ENQUETE

特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

今村創平

●A1
結局、被災地には一度も足を運んでいませんし、現地での計画等にも関わっていません。関連する文章もたいした量は読んでおらず、震災関連の展示もいくつか見た程度です。仙台には行っていますから、中途半端に関わり、そこで感じたことについて発言することを避けているのかもしれません(3.12に大地震があった新潟では、復興に関するプロジェクトを2つ手掛けています)。
ですから、この項目はパスすべきなのでしょうが、ひとつだけ述べます。
このような事態に際して、建築家はこれまでとはまったく発想を変えるべきだ、姿勢を変えるべきだという意見には、違和感を覚えます。例えば、前衛的なものや、内省的なものは、もうやめるべきだという発言には、危ないものを感じます。私は、特に前衛的なものや、内省的なものを手放しで支持しているということはなく、時として批判的でもあると思います。しかし、今回の状況に面して、〈正しい〉ことを人に強いるのはどうかと思いますし、その例えば〈前衛的なもの〉なり〈内省的なもの〉、そのほかが、平和で、余裕があるときに行なわれるものだとの決めつけはおかしい。またそれを実践している建築家側も、まわりのムードを察して方針を変えるのはいかがなものか。呑気に気儘にデザインをしているのではなく(もちろんそうした人もいるでしょうが)、人や社会や世界にはいろいろな面があり、それらを勘定に入れたり、批判しながら、さまざまな表現が生まれている。それが日本の現代建築の強みでもある。それが、津波に流されるように平らにされてしまっていいのだろうか。今こそ本来の建築に帰るべきだといった言い方は、傲慢だと思う。

●A2
自分が関わったものをまず挙げるのもどうかと思うが、建築の展覧会では、「メタボリズムの未来都市展」(森美術館、9月17日~2012年1月15日)がとても充実したものであった。この展覧会のカタログに加え、八束はじめ『メタボリズム・ネクサス』、レム・コールハースほか『Project Japan』と、メタボリズム関連の出版が相次ぎ、関連するシンポジウムなども多数開催された。半年前の建築運動の見直しが、かなりの密度で一気になされた感がある。歴史を忘却しがちなこの国という文脈からも、特筆すべきだと思う。
ほかに、建築の展覧会では、「ヴァレリオ・オルジャティ展」(国立近代美術館、11月1日~2012年1月15日)がまずは挙げるべきものであり、それ以外にも「建築家 白井晟一──精神と空間展」(パナソニック電工汐留ミュージアム、1月8日~3月27日)、「20世紀のポスター[タイポグラフィ]展──デザインのちから・文字のちから」(東京都庭園美術館、1月29日~3月27日)、「畠山直哉展 Natural Stories」(東京都写真美術館、10月1日~12月4日)がよかった。
多木浩二さんがお亡くなりになった。重要であり、これほど影響力があった建築の批評家の死に際して、建築メデイアはほとんどまったくと言っていいほど、反応しなかった(「10+1 web site」は「特集=追悼:多木浩二」を組んでいましたが)。建築界の言論を取り巻く環境が、ここまでやせ細っているのかという印象を持った。

八束はじめ『メタボリズム・ネクサス』/レム・コールハースほか『Project Japan』

●A3
具体的には特にないが、2011年はフェースブックを使いはじめ、国際的なコミュニケーションがまた〈ぐんと〉前に進んだ感触を得た。
併せて2011年のことだが、9月に訪問した、AMOが関わっているモスクワの学校「ストレルカ」は刺激的であったが、この学校の学生一同も11月に来日するなど、建築教育の国際化はますます進んでいる。ストレルカは、学費無料、こうした海外研修もすべて学校持ちであり、世界中から学生が集まっているのだが、40名ほどの枠に900名の応募が今年はあったそうだ。しかし、まだ日本からの学生はいない。
この頃はほぼ毎月、海外の建築学校との交流の機会がある。3.11以降、海外からの渡航者は減っているようだが、個人的には海外から日本に来る建築関係者は増える一方である。日本全体はどうかわからないが、日本の建築や都市は、外国から訪れるに値する場所であることは間違いないようだ。
11月にコンピューテーショナル・デザインをテーマにシンポジウム「パラメトリック、アルゴリズミック、デジタル・ファブリケーション」(工学院大学、11月8日)を企画したが、参加メンバーのうち、木内俊克さんと砂山太一さんはパリから戻ったばかり、田中浩也さんも春にボストンから戻ったところと、帰国組が図らずも集まった。
これまでは、海外で経験を積む人は少数派であったが、国際的な環境で勉強なり仕事をすることは、だんだんと普通のこととなってきており、それがこの数年でさらに顕在化するのではないか。
こうしたことの情報は、まだいわゆる建築雑誌ではほとんど扱われておらず、しかし勘の若い人たちたちは、うまくアクセスできている。それはこの方面のリテラシーの問題でもある。
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引 『10+1』DATABASE
ページTOPヘ戻る