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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

饗庭伸

●A1
4月に開催された「ニコニコ超会議2」というものに行ってきました。たぶん日本中の趣味を集めたメタなコミケみたいなもんだと思います。「ニコニコ動画のすべて(だいたい)を地上に再現する」というコンセプトで開かれたこの会議、広大な幕張メッセが小さなブースに区切られ、ブースごとにめくるめく趣味の世界を覗くことができました。一つひとつのブースは熱気があるけれど、意外と小規模であり、出入りをする人の流れを見ていると、お互いに関心がない、という、インターネットがそのまま現前したような空間で面白かったです。日本中がもっと暇になったら、こういう面白い都市空間が出来るのになあ、と思いますが、みなさんオリンピックで忙しいんでしょうか。そもそもオリンピックだって趣味の集まりなんですがね。

「ニコニコ超会議2」会場


●A2
個別的ではないのですが、そろそろ震災復興が空間の形をとって建ち上がり始めるのではないかと思います。コンペで設計者が決められたいくつかの建物、高台移転の住宅地、復興公営住宅、防潮堤、浜小屋といった恒久的なものに加え、たくさんの仮設住宅や仮設商店の次の姿、福島の中長期型の仮設住宅、「仮の町」への取り組みの進捗などが気になります。区画整理や再開発の取り組みも変わらず続くと思いますが、順調にいったものでも2014年に建ち上がり始めるものはないでしょうね。

●A3
64年のオリンピックが国家のオリンピックだったとしたら、20年のオリンピックは民のオリンピックなのだと思います。2002年にスタートした都市再生からのここ10年間、東京はひたすら「民が都市をつくる」ための力、制度、組織、方法を蓄えてきました。都市計画道路だって民がつくるくらいですから、この10年間で東京の都市計画のOSは完全に入れ替わってしまったわけですね。公共の判断や価値観というものは、基本的にはブレません。国土交通省の官僚も、小さな町の都市計画課の職員も、同じ判断を下し、同じように都市計画を進めるというのが公共による都市づくりですが、民とは本質的に多数で、すべて異なる判断を下します。その民が都市をつくる仕組みがこの10年間の東京でジャングルのように発達し、それはおそらくこれまでのオリンピック都市では一番のジャングルのはずです。そのジャングルを使って、総意や工夫をこらして、どのようにオリンピックを迎える都市をつくるのか、注視したいと思っています。
私なりに「こうなればよいな」ということを一言でいうと、「多様な値段の観客席を7年かけて東京の中にどうつくるか」、ということです。空間のスピードの多様さです。民によって、ゼロ円の観客席から1億円の観客席まで、さまざまなスピードを持つ観客席を都市の中に混在させてつくることができれば、東京は素晴らしい都市になると思います。例えば超高層の建物のオーナーが、屋上の空間をオリンピックの観客席に解放して世界中から人を集める、世田谷の商店街が路面を封鎖してデザインされたパイプ椅子を並べ、振る舞い酒をしながらイスラムの人たちとオリンピックを見る、空いている建築ストックをリノベーションし、世界の貧しい人たちがオリンピックを楽しめる空間にする......など、民が所有する多様な空間の可能性を試す機会にオリンピックがなればよいと思いますし、7年後をゴールにして、そこから逆算的に現在の建物の使い方を考えていくこともあってよいと思います。「民」とは多義な言葉で、そこには大規模なデベロッパーも、空き家活用を仕掛けるNPOも、土地をたくさん持っている市民も、たいしてお金を持っていない市民も、ホームレスのおじさんも含まれます。ほぼすべての私たちが自分のもつ空間を使ってどうオリンピックを迎えるのか、ということです。スタジアムや選手村といった派手な空間ばかりが話題になりますが、オリンピックを迎えるのは施設ではなく都市ですから、どういう種類の都市の空間がオリンピックに向けてあるべきか、なんてことをきちんと考えたいですね。
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