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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

岩元真明

●A1

OMA《インターレース》

シンガポール出張中に訪れたOMA設計の《インターレース》が印象に残っている。2014年に竣工予定の1,000戸以上を収める巨大集合住宅である★1
インターレースは6層分の高さを持つ直方体のヴォリュームを蜂の巣状に積み重ねることで構成されている。単純な操作だが、結果として生まれた外部空間と外観はきわめて複雑であった。とにかくスケールが大きい。視界に全貌を収めることができない。単純なシステムでも、人間の目では一部しかとらえることができない。積み木のように直方体を積み重ねる「スタッキング」の操作は、昨今の現代建築の常套手段である。しかし、紋切り型の手法でも超巨大なスケールで展開することで、既視感のない構築物が生まれていた。
蜂の巣状の配置からは、1960〜70年代にオランダで建設された巨大開発プロジェクト、《ベルマミーア団地》が想起される。一辺約100メートルの高層団地を六角形状に配置したベルマミーアは、中産階級を想定して建てられたものの、低所得者層によって占められてスラム化したという負の歴史を持つ。無論OMAは、ベルマミーア団地を知らずにインターレースを設計した訳ではないだろう。実際、OMAは1980年代にベルマミーアの再開発計画を提案したことがあり★2、また、コールハースは近年のインタビューにおいても、ベルマミーアについて言及している★3
インターレースはベルマミーアを批判的に応用したものと考えるのが妥当だろう。両者の配置図は似通っているが、インターレースはブロックを積み木のように重ねた建築なので全体の約半分はヴォイドである。高層団地が板状に視線を遮り、目の届かない危険な中庭が生まれたベルマミーアと異なり、インターレースの中庭は閉鎖されていない。ベルマミーアは、結局は減築を行なうことで、すなわち密度を減らすことで再開発された。一方、インターレースは高密度を維持しつつ、あらかじめヴォイドを計画することで開放性を生み出すことに成功している。
超巨大スケール、高密度、ヴォイドの操作、近代建築の批判的適用。インターレースはこれらすべてを備えた、きわめてOMA的な建築と言える。ただ、コールハースの原点であるシュルレアルな神秘性は、そこにはない。インターレースの主任建築家は、現在OMAを独立したオレ・シェーレンである。インターレースはOMAがコールハースの手を離れ、彼個人の作家性を押し殺し、「ジェネリック」な運動を始めた記念碑と言えるかもしれない。

OMA《インターレース》
筆者撮影

★1──インターレースについては以下ウェブサイトを参照した。
URL=http://www.dezeen.com/2013/10/14/the-interlace-by-oma-and-ole-scheeren-nears-completion/
★2──OMAのベルマミーア再開発案は1986年に計画された。
URL=http://www.oma.eu/projects/1986/bijlmermeer-redevelopment
★3──コールハースは近作《デ・ロッテルダム》を説明する際に、ベルマミーア団地について言及している。
URL=http://www.dezeen.com/2013/11/27/de-rotterdam-rem-koolhaas-transcript/

●A2

OMA/コールハースが続いてしまうが、「ファンダメンタルズ」と題されたコールハースが総合ディレクターを務めるヴェネツィア・ビエンナーレに注目している★4。ファンダメンタルズとは「基礎的事項」と訳される経済用語であり、国際社会における一国の経済状態を表現する指標のことである。たとえば、経済成長率や物価上昇率、失業率などはファンダメンタルズである。ビエンナーレという国際的な舞台において、コールハースは各国を相対化する彼らしいテーマを掲げたと言えるだろう。ステートメントから一節を引用する。

──1914年の段階では「中国の」建築、「スイスの」建築、「インドの」建築などについて語ることに意味があった。その100年後、(...中略...)かつては固有性を持ちローカルなものであった建築は、交換可能でグローバルなものとなった。国家のアイデンティティは近代性の生贄として捧げられたのだ★5

「近代化の進展とともに、都市のアイデンティティが失われる」というのは、1994年に発表されたエッセイ「ジェネリック・シティ」のテーゼであった。そして、「ファンダメンタルズ」では、「都市(シティ)」が「国家(ネーション)」のスケールへと拡張される。すなわち、コールハースは近代化とグローバリゼーションが不可避的に「ジェネリック・ネーション」を招いた、と考えているのだ。各国の参加者には、この流れに抗って、あるいは身をまかせて、提案を行なうことが期待されている。もちろん、ファンダメンタルズには「基本」「原理」といった意味合いも含まれるはずである。各国がどのようなファンダメンタルズを示すか、注目したいと思う。

★4──ヴェネチア・ビエンナーレ 第14回国際建築展(会期=2014年6月7日〜11月23日)
URL=http://www.labiennale.org/en/architecture/
★5──拙訳。原文は以下。
URL=http://www.labiennale.org/en/architecture/news/25-01.html

●A3

オリンピックに関する一連の報道を聞きながら、いつかはベトナムでオリンピックをすることもあるのだろうかと考えていた。しかし、調べてみると熱帯でオリンピックが開催されたことは過去に一度もない。暑くて記録が伸びないからかもしれないが、いずれにせよ、オリンピックやスポーツという枠組み自体に近代という時代が深く刻印されていることを感じる。
JIAの機関誌に掲載された槇文彦の「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」★6は真に批評的な文章であった。
大多数の建築家は、プリツカー賞受賞者云々という法外な参加資格によってコンペの蚊帳の外に置かれた。そして、オリンピック選手の活躍をTVで見る視聴者のようにプロジェクトの行く末を傍観していた。新国立競技場に関わる回路など、一切ないように思えた。しかし、槇の批評は国家的プロジェクトに対して、各自が当事者意識を持つことを訴え、また、主体的に行動する可能性をも示すものであった。

★6──『JIA MAGAZINE』Vol. 295、2013年8月号。以下よりPDFで閲覧可能。
URL=http://www.jia.or.jp/service/newsletter_jia/detail.html?id=34


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