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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

佐々木啓

●A1
新建築『住宅特集』12月号・住宅白書
2013年を総括するにはいささか大袈裟だが、新建築『住宅特集』誌が過去に掲載された住宅作品の今を伝えた12月の特集には示唆を受けた。住宅建築のその後を取り上げること自体は他に例がないわけではないだろうが、新しく建てられた住宅建築のレビューがその役割として定着した媒体の決断にはそれなりのインパクトと批評性があるように思う。もしくは普段は建築家の意図が表現される場であることに筆者も含めて読者は慣れているので、それとの違いがより浮かび上がりやすかった、ということなのかもしれない。誌面では新築当時と現在の写真などを織り交ぜながら、住み始めてからの変化が詳細に掲載されていて設計者として勉強になることも多いし、なにより建主の言葉がとても面白い。住み始めてからの印象や気づきに加えて、状況の変化に応じて与えられた空間を解釈し、新しい使い方を開発しているように読めるところが特に良い。家族は歳を取るし、周辺環境も変わる。子供室の使い方を考え直したり、時には家族以外の人が入り込んでシェアハウスになったりと、建主の日々にはいろいろな変化があり、変化の数だけ建物と建主の対話がある。そして当然のことながら建物は簡単に建替えられたりしないので、つまり建築が生きる時間尺度は人々が引き受ける変化の時間尺度より随分と長いので、人々は与えられた空間のなかで変化を理解し、新たな生活の秩序を見出すべく模索し折り合いをつけていく。このとき建築は、人々にとって各自の立ち位置を理解することを可能にするような、ある種の基盤として現れてくる。このことに気が付くと、誌面で紹介されている住宅建築は、竣工時をその創造性のピークとするような過去のものとしてではなく、日々の生活に秩序を与え、変化に応じて新たな均衡をもたらす現在進行形の創造性を見出すことができる。誌面を眺めていると、建築が人より長い時間を生きるという単純な事実は、これだけ人々と空間の間に豊かな対話を与えるものなのだな、ということを実感でき、とても考えさせられる内容だった。

2013年は震災から2年が過ぎ、震災の経験が表現として具体的に定着しはじめた1年だったように思う。アーキエイドの活動や、みんなの家、あるいは東北各地で行なわれたプロポーザルなど、直接的に復興に関わるものもあるが、建築表現を巡る認識のなかでは、こうした建築と時間の関係に対する言葉が更新されつつあるように感じるし、また筆者自身もこのことに取り組みたいと思っている。それは建物を長く使うことの美徳というよりも、建物が人間より長い時間を生きることが人間の日々を再帰的に条件づけるということへの期待として現われる。この変わらないことに価値を見出す建築表現の探求は、新しさを巡る建築表現の探求と同じくらいエネルギーが掛けられても良いのではないかという気がしている。

『新建築『住宅特集』12月号・住宅白書

●A2
コモナリティデザイン
2014年は筆者の所属する東京工業大学塚本研究室にて「コモナリティ」(共同性)について論じた書物が出版される予定である。コミュニティやシェアといった概念は近年関心の高い言葉であるが、これらが人々の間に関係として見出されるものなのに対して、「コモナリティ」は個々に共通して内蔵されるものを捉えようとする言葉だ。私たちはコモナリティという言葉を考えることで、良いパブリックスペースとは何かを考えられるようになるのではないかと考えている。例えば花見。花見シーズンの公園は日本が誇る素晴らしいパブリックスペースのひとつだが、これは桜があれば世界各地どこでも起こる代物ではない。そこには人間の側に桜の下でお酒を飲んだり食事をしたりして楽しむ、その仕方が体感的に理解されている必要がある。私たちは現にそれを心得ているから、見ず知らずの人たちの真横にシートを敷いて花見を楽しむことができる。この人々に内蔵された性質を「コモナリティ」と呼びたい。そしてこの性質が公共空間の設計の組み立てにとっていかに寄与しうるかを捉えることを目指している。
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