ENQUETE

特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

門脇耕三

●A1
2013年は、建築家が歴史を認識することの重要性が、繰り返し指摘された年だった。『GA JAPAN』No.124には、「歴史観なき現代建築に未来はない」という直截なタイトルの特集が掲載されたし、日本建築学会の学会誌『建築雑誌』でも、「『建築家』が問われるとき」と題して、建築家という職能を歴史的に位置付ける特集が組まれた(2013年11月号)。年末に発行された『SD2013』でも、第2特集「日本現代建築における歴史認識をめぐって」において、SDレビュー入選者の歴史的位置付けが、入選者自身によって披瀝された。
また、2013年は、いくつかの媒体において、建築批評の場が増えた年でもあった。『新建築 住宅特集』では、2013年7月号より、掲載作品に対する「批評」欄が設けられ、2013年最後の号となる2014年1月号では、ほとんどすべての掲載作品に対して、第三者による批評が掲載された。日本建築学会には、「建築討論委員会」が新設され、Webを媒体とした建築批評の場が準備されつつある。
この2つの動きは、おそらく同じ地平の上に展開していると考えてよいだろう。すなわち、建築における言説空間の重要性の再確認が、進んでいるのである。
こうした動き自体は、歓迎すべきことだと筆者は考えている。建築作品そればかりではなく、個別の建築作品を成り立たせている文化的・技術的・制度的な共通基盤(これこそArchitecture=建築にほかならない)を如何に豊かなものへと育て上げていけるかが、建築に携わる者の最重要の責務であると筆者は信じているし、建築における言説空間が、この基盤の一端を担っていることに間違いはないからだ。
一方で、2000年代に通底していた、建築創造にまつわる一種の楽観主義的な気分も、ここ1、2年で、一気に雲散霧消してしまったようにも感じている。これが建築創造の可能性を狭めるものではなく、むしろ拡張するものであってほしいと筆者は願っているが、この動きの向かう先は、おそらく2014年中には、おぼろげながらに見えてくることだろうと感じている。

『GA JAPAN』No.124/『SD2013』/『新建築 住宅特集』2013年7月号

●A2, A3
東京オリンピックに関する企画が、建築系のメディアでも動き出しつつあり、2014年の最大の関心事のひとつになることは間違いなさそうである。2013年は、槇文彦の論考に端を発する《新国立競技場》に関する議論が話題を集めたが、筆者も大いに関心を持って議論の行く末を見守っており、多くの識者からの意見や提案を新聞・雑誌・Webなどで拝読した。ただし、これらの意見や提案は多様である反面、玉石混交である感は否めない、というのが正直な感想である。陸上競技場の国際規格やトレンド、国内の建築関連法令にそぐわない意見や提案も散見された。筆者は競技施設計画の専門家ではないが、多くの設計者や技術者や研究者とこの問題について直接議論するなかで、勉強させていただいた観点が多数あった。これだけの規模の競技場なのだから、エラーやバグのない意見を個人に求めること自体が、おそらく困難なのだろう。
だとするならば、多様な意見をピアチェックを経て集約し、専門家集団の見解としてオーソライズする方法は考えられないだろうか。今後、オリンピックについて語られるべき事柄は、単体施設の是非の域を出て、地域全体、東京全体、ひいては日本全体の問題へと遷移していくはずである。2020年には、「震災後」という状況にも、ひとまずの区切りをつけねばならないだろう。つまり建築や都市に携わるあらゆる専門家は、オリンピックの問題に関して、部外者ではあり得ない。したがって、専門家による集合知の形成が、重要な課題として浮上してくるわけであるが、Webがこれだけ発達した現在、情報がきちんと開示され、適切な専門家団体が舵をとれば、これは決して不可能なことではあるまい。
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引 『10+1』DATABASE
ページTOPヘ戻る