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65 デンマーク[1]
なにしろ冬のデンマークの陽は短い。撮影しようにも9時半では薄暗くて仕事にならない。そうかと思うと2時過ぎにはもう陽が陰ってくる。暗い内に出かけて、低い太陽を待ちかまえる勢いでないといけない。そんななか、嬉しい経験をすることもあった。コペンハーゲン郊外でヤコブセン設計の住宅をスケッチしていると、初老の婦人が寒いから紅茶でも如何と招いてくれ自宅の素晴らしさを熱っぽく語ってくれたのだ。時には、ワインやディナーまでご馳走になることもあった。
デンマークの建築はかつての王立芸術アカデミーの学長でもあったカイ・フィスカーによって「機能的伝統」と表現されたように、伝統的な形態や素材を用いながら明快で抑制のきいたデザインを追求するところに特徴がある。それを『Architectural Review』誌では"sane"な建築と定義している。なるほどそれは建築だけでなく、そこに暮らす人にも影響を与えているのかもしれない。
カイ・フィスカーの教え子でもあったアルネ・ヤコブセンの作品を訪ねると、創られた年代によってずいぶんと印象が異なることがわかる。初期の伝統的スタイルの住宅(1928)に見られる煉瓦のくすんだ黄色から、《ベラビスタ集合住宅》(1934)の連続するキューブを覆い尽くすプレーンな白、そして《オーフス市庁舎》(1942)の大理石による不均質な色合いへとその傾向は大きく変わる。晩年の作品、《ルードブレ図書館》(1969)では真っ黒なモノリスが芝生に鎮座し、向かい合わせに建つ《ルードブレ市庁舎》(1956)のカーテンウォールとは対照的な表情を見せる。しかし、こうした多様なスタイルは規格化された煉瓦や石の単位一つひとつから構成された均質/不均質な面によってもたらされる共通性を持つ。それは弱い太陽の光の中で自然の微妙な変化を映し出す為の下地ともなっている。
そう言えば、ひとつのブロックからいくつもの組合せが可能なLEGO社のブロックは、初期に製造された数十年も前のものと現在のものとがしっかりと接合するそうだ。そんなところにもデンマーク人が持つ「機能的伝統」の精神が息づいているのかもしれない。
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pic アルネ・ヤコブセン《アルネ・ヤコブセン自邸》 [1] [2]
pic アルネ・ヤコブセン《ベルビュー・シアター》[1] [2]
pic アルネ・ヤコブセン《テキサコ・サービス・ステーション》
pic アルネ・ヤコブセン《マーシー・ハリス・ショールーム》[1] [2]
pic アルネ・ヤコブセン《ルードブレ市庁舎》[1] [2]
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