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85 ゴシック建築の誕生

ゴシック建築はパリの北隣、サン=ドニで誕生した。1144年に挙行されたサン=ドニの内陣の献堂式こそが、ゴシック建築の誕生を高らかに宣言した出来事だったと考えられる。
ゴシック建築の誕生には、いったいどのような意味があるのだろうか。西洋の歴史的な建築様式において、ゴシック様式は古典主義様式と並び称される、二大様式の一翼を担うものである。
古代ギリシア・ローマ時代に誕生した古典主義様式は、中世には衰退するものの、ルネサンス時代になると再びヨーロッパの建築潮流の中心的な役割を果たすようになる。ルネサンス建築はその後も姿を変えながら洗練、装飾化、頽廃、さらにはリバイバルなどの道を歩んでいくが、そのいずれも古典主義様式の系譜であることには違いない。
一方のゴシック様式は、1144年のサン=ドニにおいて突然誕生したように思われる。それは建築における「光」と「軽さ」の革命であった。サン=ドニにおいて、石造の建築に視覚のトリックともいうべき「軽さ」という、それまでの建築には存在しなかった空間表現が持ち込まれたことの背景には「アン・デリ」と呼ばれるモノリスの細い円柱の着想があった。
だが今回は「アン・デリ」に注目するではなく、これまでゴシック建築の最も重要な建築要素と考えられてきた「リブ・ヴォールト」に注目して写真を集めてみた。
リブ・ヴォールトが大々的に用いられた最初の実例は、よく知られているようにイングランド北縁のダラム大聖堂においてであった。この実験的な大建築が着工したのは、ゴシック建築の誕生とされる1144年より半世紀も前のことである。この建築は明らかにゴシック建築の技術的な出発点であるが、これは決してゴシック建築とは呼ばれず、ノルマン・ロマネスク様式と呼ばれる。今回ここに集めた写真は、イングランドとフランスのノルマンディー地方で発展したノルマン・ロマネスクのリブ・ヴォールトが、北フランス地方を経由してパリに到達し、サン=ドニでゴシック建築の誕生に至るまでを概観するものである。



[撮影者:加藤耕一(東京大学)]

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