アートの現場から[2]

Dialogue:美術館建築研究[4]

Dialogue[1][2][3]
 
 奈良美智
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 青木淳                     
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●横浜美術館

▲図22
▲図23
▲図26
▲図27
▲図28
 

青木──横浜は、横浜の空間を相手にして、そこから作品をつくったけれど、そうしてつくったものは巡回には……。
奈良──横浜のも結構悔いが残っているところもたくさんあるんだけど。
青木──たとえば?そういうこと聞いて良いのかどうか分からないけど。
奈良──いや、箱とかの問題ではなくて自分の問題で。あそこはこういう感じの空間だったんですけど[図22]、例えば変に回廊風に作ることもできたんですよ、迷路風というか。
青木──最初のぬいぐるみの辺り?
奈良──そうですね。そういう風な展示も考えられたんだけど、でもあえてバーンと使おうと思って左右対称みたいにつくったんですよ。
青木──そうでしたね。
奈良──作品の置き方もほとんど左右対称で、記号で見た時にはすごいニュートラルな感じにしたのだけれど、果たしてそれが良かったのだろうかとか、今は考えていて。いつも良く思うことは、ひとつのスペースをなんというか、スペースがたとえ決まっていても、歩き方でもっと広く感じさせることができると。例えば、西洋の庭園なんかだとどれぐらいの大きさがあるかとかいうのは、結構分かるんですね。ところが日本庭園は歩く順序で、とてつもなく広いところに来たような、いろんなものがあって、すごく時間がゆっくり流れていって、広いところに来たなって思う。でも、あとで地図を見たらすごく小さかったりして。逆に西洋のはバーンと広いんだけど、なんか見渡せちゃうから……。
青木──一目で空間が把握できるからね。現実の横浜のはフランス庭園式で、日本庭園式も可能だったというわけか[図23]
奈良──でも、なんか違う展示ができたんじゃないかなとかね。個々に堀立小屋をつくったでしょ。あの堀立小屋をこういうところでやるとか。しかも壁にただあるんじゃなくて、巡っていけるような。そういう風なことも考えられたなとか。
青木──そこは微妙ですよね。それやるとなんて言うのか、元々の空間は可動壁をなくした結構バーンとした空間なのに、こういう庭園風なことをすると、つくり込んだように見えてしまうよね。
奈良──ただ、こういう風にしたらよかったなと思うのは、こういう風に巡回してゆくっていう……。だから、ある程度のスペースを必要とする作品っていうのをつくったら、こういうところだとどうにもならないことがあるっていうのを、僕は今回巡回展というのが初めてだったので、そういった点で勉強になったかなと(笑)。
青木──なるほどね。こっちの回遊式庭園でやるのも面白そうですよね。
奈良──例えば原っぱじゃないけど、何もない状態で人が歩く道っていうのはできますよね。それを壊すことで、こういうことができてゆく。
青木──例えばそれでイメージしているのは壁ですか?
奈良──壁ですね。壁と階段ですね。それはつくり込む階段なんですけど。これは一番最初に考えたやつですね。

▲図24 ▲図25
青木──横浜の第1案。これ一番最初の部屋のイメージですか[図24]。ここにあの掘立小屋がくるわけ?
奈良──いや、違いますね。これはですね、ここが庭になっていて[図25]

芝生になっていて、ここにちっちゃな白い柵があって、ここに犬小屋があるというそんな感じです。
青木──そうか。でもこれなんかでも、全部の場所は四角いんだね。壁だけ見ると迷路みたいだけど、こういう場所からこういう場所へ、こういう場所からこういう場所へと移っていくことで、そうすればそういう空間になって行くんだね。
奈良──そうですね。だからここの四角とここの四角は比例的に同じで、ただこうじゃなくてこう変えているとか、長くしているとか。ここの入り込む空間とここの入り込む空間は、入り込むことは同じなんだけど、こっちは深くするとか。そういったことを漠然と考えていて。あとはホントに部屋をつくっちゃおうと思ったんですよ。ちょっと見づらいと思うんですけど、これ上から見たものなんですけど[図26]、入ったらカーペットがあって机があってとかね。
青木──生活している場所という感じ。
奈良──そうですね。本棚みたいので区切って、そこに本があってテレビがあって、あの半透明の服とか入ってるボックスにぬいぐるみとかつめたり[図27]。いっぱい考えたんですよね。鏡も使うけどどう使おうとか。これは階段のプランで[図28]、こう頭を出すとみんなが顔だけが見えるというやつとか。
青木──この場合だと、もうこれが作品になるわけだよね。
奈良──そうですね。上から見ると、こう丸くしようかなと[図29]。あとこれは犬型の机をつくって[図30]、ちっちゃいのがいっぱい並んでて、そのちっちゃい四つの上に四つ足で大きいのが並んでて、最後のでっかいのがこうくるという。
青木──子供の時に体育でやるやつですよね。
奈良──ええ。これは上にいくにつれて大きくなるんですよ[図31]。なんかその比例を計算したりなんかして。
青木──してますね(笑)。

▲図29 ▲図30
▲図31 ▲図32
奈良──これ小学校でやってたら面白いんですけどね。
青木──これは建物の設計?設計まであるんですか[図32]
奈良──これはですね、ここをどう改造しようかと最初考えてまして。
青木──ああ、なるほど。
奈良──探せばもっとたくさん出てくるんですけどね。横浜のアイデアみたいなものが。ですけど、決して作品の内容じゃないんですね。こういう絵を描くとかそういうものではなくて、やっぱり空間があってこれくらいの大きさが必要だろうと。で、これくらいの大きさを大前提に初めて自分がこう入ってゆくというか。

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