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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

山崎亮

●A1
印象に残ったこととしては、建築設計の根拠が変わりつつあるということですね。2012年は『新建築』という建築雑誌の月評を担当しました。ほぼ10年ぶりに同誌をちゃんと読んでみたのですが、10年前に比べてプロジェクト全体の進行を示すダイアグラムや住民参加のプロセスがかなり丁寧に描かれていました。これは大きな変化だと思います。建築を設計するときの根拠に地域のニーズやプロジェクト全体が向かう方向性などがしっかり意識されているということの現われでしょうね。形態の説明のために哲学を援用したり、アルゴリズムを根拠にしたり、「ゲニウス・ロキ」なんて言葉を使わなくてもよくなった。それよりも、将来の利用者に集まってもらって直接話を聴き、それらをうまくまとめて建築空間に落とし込み、さらに声を聴けなかった人たちの利用を想定しながら空間形態を変化させていく。全うな設計プロセスを経て生まれる建築の数が増えてきたというのが2012年の印象です。これはきっとここ数年続いている傾向なのでしょうけど、私がしっかり建築と向き合ったのが2012年だったので新鮮な驚きを感じた次第です。

●A2
瀬戸内国際芸術祭2013は楽しみですね。前回の瀬戸芸からさらに関わる人たちが増え、エリアも増え、新たな作品が生まれることになる。こうした芸術に触発されて島を巡る人たちが増える。瀬戸内海の離島はいずれも人口減少に悩んでいますが、瀬戸芸のようなプロジェクトをきっかけにして島を巡る人たちが増えることは、いくつかの可能性を生み出すことになるだろうと思います。私たちも瀬戸芸のひとつ、小豆島に醤油を使ったアート作品をつくっています。ただ、コミュニティデザイナーとしてつくるアート作品ですので、実際につくっているのは小豆島に住む有志の住民たちです。僕たちがつくっているのは、彼らが集まるためのきっかけ。きっかけに応じて集まった「醤油作品づくりコミュニティ」が、アート作品をつくることになっています。まさにコミュニティアートだと言えるでしょう。

●A3
未曾有の大震災に見舞われた東北地方の復興に巨額の予算がつけられたことに対する若干の違和感と、その予算を無駄なことに使ったり不正なことに使ったりする人たちがいたということに対する無念さが記憶に残っています。いまも「ゼネコン」とか「コンサルタント」とか「シンクタンク」と呼ばれる人たちがたくさん東北に入り、念入りな「営業活動」を行なっていると聞きます。東北地方のまちを復興するのか、経営が悪化している自社の売り上げを「復興」するのか、目的を間違えないようにしなければならないと思います。
東北地方の復興を目指すのであれば、道路や堤防をつくることもさることながら、人の気持ちを復興させることが重要でしょう。未来に対する希望を共有することが重要でしょう。コミュニティデザイナーという立場から、コミュニティの復興、気持ちの復興についてお手伝いしたいと考えています。
特に震災後3年から状況が厳しくなります。阪神・淡路大震災のときも、全国的に「神戸の震災は一段落したかな」と思われていた3年後、神戸はまだ復興の前提すら整理できていない状態でした。「神戸」を経験した者として、私たちは3年後からの東北に貢献できるようプロジェクトを立ち上げたいと思っています。
そのうちのひとつが東北の大学に「コミュニティデザイン学科」を創設するという試みです。東北の人の心を復興するために、被災地で活動するスキルを持ったコミュニティデザイナーを養成しなければなりません。被災地や周辺の限界的な集落を回り、困っている人たちの言葉を聞き取り、画期的な方法で住民とともに復興への道筋をつくりだす。そんな若者をたくさん育てたいと考えています。2013年に高校生がコミュニティデザイン学科を受験してくれれば、2014年から彼らとともに東北のさまざまな集落で実践的な活動を展開したいと考えています。
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