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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

柄沢祐輔

●A1

『現代思想2012年11月臨時増刊号 総特集=チューリング』(青土社、2012)

2012年はアラン・チューリングの生誕100周年にあたる。アラン・チューリングは"アルゴリズム"の概念を計算機科学の分野で初めて明確に定式化した人物。彼の定義したアルゴリズムの概念である「ユニバーサル・チューリングマシン(万能チューリングマシン)」の方法に基づいて、今日のほぼ全てのコンピューター──iphoneからスーパーコンピュータに至るまで──が作動している。このアラン・チューリングの生誕100周年を記念する「現代思想」の特集号が刊行された。執筆者は、円城塔、西垣通、郡司・ペギオ・幸夫、池上高志、ドミニク・チェン、照井一成ら。情報分野に限らず、文学、論理学、情報社会論などさまざまな分野の執筆者が名を連ねている。この特集に、筆者も建築分野の立場から論文を寄稿させていただいた。タイトルは「アルゴリズム建築とその計算可能性」。今日におけるアルゴリズム建築の可能性と今後の射程について34,000字の論考を掲載していただいた。そこで筆者はアルゴリズムの建築の可能性を、モダニズム建築の均質な秩序でもなく、ポストモダンの無秩序でもなく、その中間のオーダーとカオスの両立した状態──クリストファー・ラングトンの言葉を借りるならば「カオスの縁(edge of the chaos)」──を実現することが、さしあたっての目標となるだろうと述べ、その建築の空間のあり方の今後の方向性としては、さまざまな異なる階層のスケールの要素がネットワーク的に錯綜する「階層状のネットワーク」を生み出すだろうと説明をさせていただいた。


●A2

《s-house》(柄沢祐輔建築設計事務所、2011─13)

筆者が現在実施設計を進めている《s-house》は、先に説明をさせていただいた意図の下に、錯綜する階層状のネットワークを実際の建築空間として実現しようというものだ。2011年の頭から設計が開始されたこの建物は、特注のスティールプレートを溶接しながら組み上げられた構造体による庇と床のネットワークが空中で立体的に絡み合い、単純に2階建ての建物であるが、空中に持ち上げられた細かな床が隣の空間では庇となり、またその庇が隣の空間では床となり、床と庇が交互に取り合いながら立体的に錯綜してゆく複雑なネットワーク状の空間を生み出している。・このプランを2011年初春に開催された「GA HOUSES PROJECT」展で展示して以降、同様のネットワーク状の建築のプランがメディアにて散見されるようになったが、床の要素が複雑に錯綜しながら絡み合うネットワーク状の建築は、おそらくはこのプロジェクトが世界で最初のものとなるだろう。建物は2年の実施設計期間を経てようやく着工を迎え、2013年の4月末に竣工をする予定である。


●A3
2012年初頭に行われたシンポジウム「縮小社会の設計」(登壇者:坂口恭平、東浩紀、モデレータ:藤村龍至)のクリティークをミサワホームAプロジェクトのウェブサイトに寄稿させていただいた。このクリティークのなかで筆者は、2009年にICCで展示した都市のモデルである「中心が移動し続ける都市」のコンセプトを紐解きながら、自律分散したネットワーク状の都市の姿を実現することが今日の日本においていかに重要であるかを述べたが、その分散した都市の姿を実現するために、SNSなどのウェブサービスを利用しながら、日本全国でどのようなアクティヴィティが繰り広げられるかを告知しながら人々を誘導するソーシャル・アプリケーション(筆者は「分流のアプリケーション」と呼んでいる)の提案を行なった。このような各地でどのようなアクティヴィティが行われるかを告知し、人々を誘導しながら、同時にアクティヴィティ自体が各地を移動しつづけてゆく(中心が移動し続ける)というコンセプトは、縮小してゆく今後の日本の都市計画のヴィジョンとしてのみならず、被災地の復興において特に意味を持つことを、ここで改めて指摘したいと思う。
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