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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

戸田穣

秋に山口を訪れた。山口情報芸術センター(YCAM)の教育普及チームが制作した《コロガルパビリオン》★1がめあてだが、昨年の本アンケートで、服部浩之さんが《コロガル公園》を紹介されていて★2、その続編。屋内に設けられた人工地形だった《コロガル公園》が今年は外にとびだし、YCAMを背景に芝生の庭に現われたのが《コロガルパビリオン》だ。設計に際して協働したのが松原慈さんと有山宙さんのユニットassistant。
山口という町での、このような営みについては、山口をよく知る服部さんの昨年の文章を読んでいただきたく、以下、恐縮だが私記である。

★1──山口情報芸術センター《コロガルパビリオン》
URL=http://10th.ycam.jp/term1/488/
★2──服部浩之「山口という都市の半公共空間(セミパブリックスペース)」
URL=https://www.10plus1.jp/monthly/2013/01/enq-2013.php#2192

金沢から陸路6時間かけて、山口に赴くことになったのは、今年度の札幌での学会の際に、久しぶりに再会した須之内元洋さんに、ずいぶん前にわたくしが訳したクロード・パランの『斜めにのびる建築』(青土社、2008)が、《コロガル公園》のリファレンスのひとつになっていることを教えられたからで、それは行かねばということで、二度目の山口訪問となった。最初の山口訪問は2002年の夏で、YCAMはまだ建設中だった。
エデュケーターの会田大也さんと菅沼聖さんの案内で見学した《コロガルパビリオン》は「子どもたちが創造する屋外メディア公園」と銘打たれ、2棟からなるひとつは円形の建物に四角い中庭が設けられ、もうひとつは円形の囲いのなかに方形の建物が納められて、内外が反転している。前者では、外壁をぐるっと上って下りるスロープが設えられ、その側面は、斜度30度と60度を組み合わせた斜面で床と繋がれる。後者では、上にいくほど小さくなっていく台形状のジャングルジムや、地元の人には馴染みの山のミニチュアなどが置かれていた。円形パビリオンで子どもたちはかけまわり、かけあがり、方形パビリオンではさまざまな遊具に子どもたちがもぐり込み、這い上がり、ジャンプしている様子を眺めるのが楽しく、また彼ら/彼女らをやさしくみつめる親御さんたちの佇まいも絵になっていた。
二つのパビリオンは、仕込まれたさまざまなメディアで繋がれ、「media > mediate(媒介する)」の言葉の意味は、子どもたちにはまだぴんと来てなかったとしても、身体で感じていたに違いない。そうした仕掛けも「子供あそびばミーティング」で子どもたちが発案したアイデアを元にしているそうだ。

コロガルパビリオン(2013)
筆者撮影

1970年の『斜めにのびる建築』は、同年のヴェネチア・ビエンナーレでの斜めのワークショップにあわせて書かれたものだが、その後もパランは、斜めのワークショップを幾度か開催している。そこでも子どもたちは時に楽しげな、時に神妙な顔つきで斜めを感じている。
ある時期に寄り添った、40年以上前に書かれたテキストが誰かの目に止まり、また何かにつながるという出来事にまみえたのがうれしく、このパビリオンにかかわり、遊んだ子どもたち大人たちに感謝しつつ、自分も時と場所を超えてなにかを媒介できたとしたらよかったと、ここ数年のうちでもさわやかな一事だった。

斜めのワークショップ(1971-73)
引用出典=Claude Parent, Entrelacs de l'oblique, Édition du Moniteur, 1981, pp. 96, 99.




一方、金沢では、21世紀美術館で「金沢若者夢チャレンジ・アートプログラム」の第6弾として企画されたワークショップ《Aloha Amigo!》が今年の3月大団円を迎えた★3。むしろ昨年のアンケートで挙げたほうがよかったかもしれないが、2012年4月から2013年の3月まで、フェデリコ・エレロさんの制作した《トロピカル・ランドスケープ》を舞台に、ウクレリアンとしても有名なサザン・オールスターズの関口和之さんのプロデュースをうけて実現した「常設展示」であって、なにが常設されているのかというと、毎日毎日ボランティア・スタッフが《トロピカル・ランドスケープ》がかわいらしく鎮座する展示室13に集合して、その日たまたま21美を訪れ、なんとなく展示室に足を踏み入れた来場者に、三つくらいのコードをその場で教えて、最後にみんなで合奏・合唱するという企画である。じつは、わたくしもそのボランティアの一員であったわけで、なんか楽器したいなあとぼやいていたら、それならウクレレやりませんかと本展示のキュレーター村田大輔さんに誘われたのがきっかけで、試しに1回行なってみたら、ウクレレのかわいらしさにたちまちやられて次の日には楽器店に購入に走ったという次第。そしてほどなく幽霊部員にもなってしまったわけでたいしたことは言えないのだが、確実に金沢、石川、北陸のハワイアン文化は盛り上がりをみせたし、今年も夏には、ウクレレ・パイナ2013 in 金沢と題したイベントが行なわれて(わたくしは遠くから眺めていただけなんですけど)★4、いま、雷、霰、そして雪に覆われる冬空の下でもウクレレが奏でられている様子が、TwitterやFacebookを通じて伝えられている。

★3──「Aloha Amigo! フェデリコ・エレロ×関口和之」(金沢21世紀美術館、2012-2013)
URL=http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=1395
★4──Ukulele Paina 2013 in 金沢(しいのき迎賓館、2013年8月24日)
URL=http://ukulelepaina.com/

わたくしはすぐに一人の楽しみにまた戻ってしまったけれど、続いていくというのはたいへんなことで、金沢では今年、湯涌ぼんぼり祭りが3年目を迎えた★5。3年目の祭りというのも、2008年の浅野川の氾濫からの復興3周年イベントとして2011年からはじまったものだからなのだが、なぜここまでの祭りになったかといえば、『花咲くいろは』というアニメの舞台となった「湯乃鷺温泉」のモデルが金沢の奥座敷湯涌温泉という、いわばご当地アニメで(制作のP.A.WORKSも隣県富山である)、学生に薦められて鑑賞したのだが、聖地巡礼も見込んだタイアップ事業であるわけだ。聖地巡礼も長い伝統だが、祭りを生んだ例がすでにあるのか、詳らかにしないけれど、テレビ放映は2011年で、今年は劇場版も公開され、毎年恒例の声優イベントや、主題歌を歌ったnano.RIPEの小学校ライブが開催され、昨年、一昨年以上の参加者を迎えたようだ。
アニメの記憶が今は昔となった頃にも続いていくよう、地元の祭りとしての定着を目指していくそうだ。続いていけと、nano.RIPEの来月発売の新譜を楽しみにしている。

nano.RIPE「ハナノイロ」PV Full size(TVアニメ『花咲くいろは』OP主題歌)

nano.RIPE『面影ワープ』Music Video(Full Ver.)

★5──第3回湯涌ぼんぼり祭り(石川県金沢市湯涌温泉街、2013年10月12日)
URL=http://yuwaku.gr.jp/bonbori/

ところで、毎年のアンケートには、その年に「印象に残った、都市や建築を語るうえで重要と思われる」と(いま考えると)さらっと書いてあって、今回まで気に留めなかったが、今年山口という地方都市のことを書こうとして、「2013年」という時間的なまとまりのなかでの事の軽重を共有しうる感覚というのは、「国内」でも「国際社会」でも「建築界」でも構わないが、ある空間的な、あるいは社会的な圏域を前提としているのだというあたりまえのことに、あらためて思い至る。重要さを推し量るというのは──逆説的に、でもないだろう──結局はある範囲内での、ものごとの一般化である。一般化に堪えるからこそ重要なのだが、一般化を逃れる体験の固有性・単独性が、その場所に立ったものにとっては大切なこととして残る。そして、新川和江がうたったように、わたしは束ねられたくないのだから、大切なことというのは単独性そのものである固有名で記すしかなく(「あの人はわたしにとって彼でも彼女でもない。あの人は自分自身の名前しかもっていない、その固有名しか。」ロラン・バルト★6)、あるいは固有名を冠した私記としてしか綴ることができず、束ねられることから逃れるように、言葉を費やしていくしかないのだろう。

★6──Roland Barthes, Fragments d'un discours amoureux, Édition du Seuil, 1977.



最後に、とくにきっかけがあったわけではないが、夏の終わりにTwitterもFacebookも退会した。去年のログを見ても夏は呟きが低調であったらしいので、そういうタイミングであったのだろう。多くの思いや言葉との出会いがあった。最後に心に留まったのは、花田佳明さんの7月4日の言葉で、翻って建築史も大改造を免れえないと、たまに書き留めたカードを見返しその言葉の重さを薄い紙片に感じている。「近(現)代建築をどう評価するかという問題を解くには、建築史学の近傍領域、特に建築設計理論や建築計画学といった分野の論理的で批評的な分析手法を投入する必要がある。逆に言えば、そういう作業に役立たない建築設計理論や建築計画学は大改造が必要である。価値観の理論化という目標に向かって。」★7

★7──URL=https://twitter.com/yoshiakihanada/statuses/352799450328080386


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