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ENDO SHUHEI ワールド ミニチュア ワールド(大阪・11/14-22)

本展覧会では、建築家・遠藤秀平が世界各地を訪問した際に手に取った建築ミニチュアとの混淆の空間が展示されている。「ミニチュア」とは実物を縮小して作られた模型のこと。会場には大きく分けて、3種類の模型が展示されており、「真面目さ」と「チャーミング」さという矛盾するような印象を与えてくれる。 [詳細URLより]

会期:2015年11月14日(土)〜22日(日) 会期中無休
時間:11:00〜19:00
会場:中之島バンクス de sign de >
大阪市北区中之島5-3-56 中之島バンクスEAST
主催:パラモダン建築展実行委員会
共催:日本建築設計学会、中之島バンクス de sign de >
詳細URLENDO SHUHEI ワールド ミニチュア ワールド

オープニングトーク:11月13日(金)18:30〜 de sign de > cafe
遠藤秀平×倉方俊輔「みんなが知らない遠藤秀平を探す」
トークイベント:11月21日(土)18:30〜 リーガロイヤルホテル
遠藤秀平×島田陽×倉方俊輔
「建築家の対話―ミニチュア、住宅、ワールドをめぐって」

▼内容紹介

往還するワールドとミニチュア

「ミニチュア」とは実物を縮小して作られた模型のこと。建築家・遠藤秀平の手元にあるミニチュアの数々が今回、展覧会場に並べられました。
遠藤秀平は1960年滋賀県生まれ。1986年京都市立芸術大学大学院を修了し、石井修/美建・設計事務所に勤めた後に独立して、1988年に遠藤秀平建築研究所を設立しました。2007年から神戸大学大学院教授を務め、現在は大阪の中心部にある建築設計事務所での実務と教育とを共に行っています。その作品はいくつもの賞を受賞し、複数の作品集が海外でも出版されています。名声は海を越えているのです。

会場には大きく分けて、3種類の模型が展示されています。そんな世界からの期待に応えたものが、そのうちの1種類。遠藤秀平が設計した作品のミニチュア、いわゆる建築模型です。ミラノ、シュトゥットガルト、パリ、ロンドンなどでの巡回展を終え、日本での帰国展が実現したわけです。
この展覧会のタイトルを「ワールド・ミニチュア・ワールド」と名付けました。どこかペナペナとした印象を与える「模型」ではなく、小さい中に本質が凝縮された「ミニチュア」の名がふさわしく思えたからです。
「模型」と「ミニチュア」の語感の違いは、どこから来るのか? 私はこう考えます。「模」はもとは工芸で使われる形木(かたぎ)の意味。2次元的、あるいは模造品や曖昧模糊のように完成する途中といった印象を引きずっています。それに対して「ミニチュア」(miniature)の語は、写本の精密な彩色画という完成品を「ミニアチュール」(miniature)と呼ぶようになったことに由来しているからだと。
すなわち歴史的事実として、3世紀頃からヨーロッパの写本に現れるようになったミニアチュールは、平面という制約を脱しようと表現技法を進化させました。それによって太古、未来あるいは現世ではない何処かにおける、言葉では表現し切れない光景を現出させます。全体を捉えることのできない世界をとじ込めようとしたわけです。こうした次元を越えようとする性格は、2次元の「ミニアチュール」から3次元の「ミニチュア」という単語が生まれても受け継がれ、今のわれわれにも理屈抜きに実感できるのでしょう。miniatureとは、既存の媒体の克服を夢見るものなのです。

同じ性格が、遠藤秀平の建築にも見出せます。会場の模型は、実際の建築を単に縮小したものではありません。部分を略したり、抽象化したりしています。そのことによってかえって、言葉では表現し切れないような建築の総体が伝わってきます。小さくても大きい、miniature的なのです。
そもそも、なぜ建物は平面図で書いた時に、内部と外部の境目が分かるようになっていなければいけないのか? 縦になった平面を「壁」、横になった平面を「床」と呼んで、その組み合わせとして考えなければならないのか? 遠藤秀平の個性である床と壁の連続や内外の浸透は、3次元の建築を2次元的に考えることの不自然さに気づかせてくれます。
こちらのほうが自然なのではないかと思えたら、そこは遠藤秀平ワールドの入口。ミニチュアを一覧するだけでも、さまざまな特徴が読み取れるでしょう。例えば、建物の大小によって造形が左右されないこと、「日本的」なデザインに寄りかかっていないこと、安直に時流に流されないこと・・。その代わり、遠藤秀平の作品には構造力学や環境工学の原理が反映されていることも分かります。建築の一貫性を追求する点において、作品群は一貫している。目の前を流れ去る現世ではなく、もっと基礎となるものに根ざそうとしているところがminiature的です。
改めて確認しましょう。遠藤秀平の建築は、建築が2次元でなく3次元であるという媒体の特性を駆使しながら、それを克服しようとしています。周辺環境という時間を取り込み、時代による変化を許容し、ここではない場所へと開かれています。そんな次元を越えようとする性格がminiature的であり、地球よりは小さく、現世より大きい「建築」の挑戦として、ふさわしく思えます。

もう2種類の展示物にも触れましょう。ここまで述べてきた1種類目である建築模型に直面したとき、人はそこから「真面目さ」と「チャーミングさ」という矛盾するような印象を同時に受けるのではないでしょうか?
「真面目さ」の側を照らし出すのが「新国立競技場II(Slowtecture TOII)」でしょう。2012年に実施され、世界に開かれたものとして新しい提案を求めたはずの「新国立競技場 国際デザイン・コンクール」がどんな顛末に至ったかは、周知の通りですが、ここでも遠藤秀平は構造力学や環境工学の原理に基づき、オリジナリティにあふれた開かれたスタジアムを提案しています。この時期に提案を世に問う実直さも分かります。
「チャーミングさ」が、今回の会場の基盤です。もっとも数が多い展示物は、遠藤秀平が世界各地でコレクションした建築のミニチュアですから。建築が世界のミニチュアだとしたら、これらはミニチュアのミニチュア。考えてみれば遠藤秀平自身の作品も、すぐに建築みやげになりそうです。両者の関係性を考えられるのは、来場者の皆さまです。

本展キュレーター 倉方俊輔(建築史家・大阪市立大学准教授)


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