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147 北海道
2012年9月中旬、珍しく残暑の厳しい北海道に訪れた。北海道の建築は日本のなかでも独自の文化を築いてきたといえる。その特色のひとつとして作家性の強いアトリエも効率性を重視する組織事務所も、ともに温熱環境を議論するといった点があげられる。北海道以外の地域では、多少断熱や換気計画を怠っていても建築は実現してしまう。建築家が提案する建築は、しばしばそういった工学的条件に目を瞑ることでその自由さを獲得してきた。しかし、北海道では厳しい気候条件により許されず、つねに工学的側面と意匠の共存によって独自の建築がつくられてきたのである。
都市化がさらに加速する札幌周辺の中心部と、北海道固有のフラットな風景がいまだ残る釧路を含む道東の地方都市。札幌周辺には、開拓されてきた歴史を物語る建造物と、全国に作品を展開する著名な建築家たちが手がけた作品が数多く見られる。一方、道東の釧路には、野武士の一員として70年代から80年代にかけて活躍した毛綱毅曠の建築が点在し、佐呂間町周辺には、五十嵐淳の事務所と彼の代表作が見受けられる。「北海道の地域性」と一括りにされがちだが、気候条件も異なり、コンテクストもまったく違う二つの土地に建てられた建築作品はそれぞれ異なった表情を持っている。それは写真を見ればおわかりいただけるだろう。今回選定した建築作品が二つの特異点を端的にとらえているかと聞かれれば、必ずしもそうではないかもしれない。しかし、その土地に佇む建築やそれらが織りなす風景から、少しでも掴み取る手助けになれば幸いである。
[撮影者:根本周(東北大学大学院)]
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