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188 カンボジアの近代建築──ヴァン・モリヴァンを中心に
1950〜60年代のカンボジアでは、ノロドム・シハヌーク率いるサンクム・レアストル・ニヨム(人民社会主義共同体)の政権下で近代化が推し進められ、数多くの公共建築やインフラが建設された。「新クメール建築」と呼ばれる独特の近代建築運動が花開いたのはこの時代である。モダニズム建築とカンボジアの伝統文化を融合し、通風や遮熱などの工夫に表現を与えた新クメール建築は、熱帯の新興国で行なわれた国家的規模の建築実験と言える。しかし、1970年に内戦が勃発し反・都市主義者であるクメール・ルージュが権力を掌握すると、都市と建築は放棄され荒廃した。内戦中に難を逃れた建物もその後の混乱と近年の開発ブームのなかで解体の危機に瀕している。
2015年の元旦、この新クメール建築の代表的建築家であるヴァン・モリヴァンの作品を見るために、深夜バスでベトナムからプノンペンへと向かった。そこで「オリンピック・スタジアム」と呼ばれる体育館の荘厳な空間に魅了されて以来、調査旅行と当事者へのヒアリングを重ねている。
ここでは、2015〜16年にプノンペンとシハヌークヴィルで撮影した建築写真を、1950年代以前のコロニアル建築も含めて年代順に紹介する。また、カンボジア国外に存在する希有な事例として、神戸市の広陵町に移築され、いまなお自治会館として使用されている大阪万博カンボジア館も紹介する。なお、設計者・竣工年等に関しては、主に"Cultures of Independence"(Reyum, 2001)と"Building Cambodia: New Khmer Architecture 1953-70"(The Key Publisher, 2006)を参照した。
[撮影者:岩元真明(建築家/九州大学助教)]
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