第2回:BIM1000本ノック──BIMに対する解像度を上げるために
3. 実務系
Q3.1 BIMのツールは建築デザインツールとして有用なのでしょうか。ツールとしては不十分だとしたら何が足りないのでしょうか。
石澤──建築デザインツールを「形をつくるツール」だとすると物足りないと思います。BIM系のソフトウェアは生産につなげることを重視しているので、ベジェ曲線やNURBSが扱えないとか、形態生成系の機能に物足りなさを感じることがありますが、それならほかのソフトウェアを使えばいいわけです
。なんでもできるものがひとつがあれば良いのではなく、やはりそれぞれ専門の使いやすい道具を揃えるというのが定石です。もうひとつ言えるのは、デザインとは形をつくるだけではなく、情報を整えて可視化し、そこから閃きを得るというのも一側面です。そういう発想から見れば、データの構成を整えられるBIMはとても有用だと言えます
。Q3.2 構造は、構造計算ソフトとのリンク程度しか行なわれておらず、2次部材や接合部等は計算ソフトには含まれず設計図書としてもあまり使用できないと思います。今後構造BIMはどうなると思いますか。
石澤──構造以外の人にとってはピンとこないかもしれませんが、構造計算ソフトでは、構造とそれ以外の部分の考え方がまったく違っています。2次部材や接合部が書き込まれていないから図面にならないし、あまり使えないというご意見ですね。
提坂──私は設計者ではありませんが、意匠・構造のBIMコーディネーションが専門です。確かに構造には解析モデルが存在するので、それを書き出せばBIMモデルにはなります。ただ、解析用につくられたモデルは、柱や小梁の接点位置で通しの大梁部材がぶつ切りになっています。そうした解析モデルを変換して図面用ソフトに持ってきたところで図面表現にはふさわしくありません。そこで導入できるのは、解析モデルのジオメトリをそのまま図面に使用するのではなく、解析ソフト内の情報をデータベース化する方法です。そうすればデータベース内で接点の統合などの処理をした上で、作図に携わる人が、作図に必要な情報だけをデータベースから取り出しモデルを再構成することができれば、解析モデルのジオメトリに頼らなくてもいいわけです
。Q3.3 BIMを実務で取り入れていますが、施工や設備会社が「Jw-cad」しか使っていないのが現状です。毎回変換のたびに時間だけがかかります。どのような対応をすべきでしょうか。
石澤──先ほどのツールの話にも関わりますが、やはりみなさん仕事をするうえで何かのツールを特化して使っているので、なんでも使えるという人はあまりいません。「ツールを変えてください」と言うのは筋ではないので、なるべくそれぞれの人の方法を尊重しながらも、私たちが持っているデータを提供することになりますが、変換の時間が結構バカにならない。だから事前になるべく良い方法を見つけて合意しておくことが大事です。例えば、ビューワーを入れてもらうとか、「私たちはここまで出しますから、あなたはそこから先を変換して使ってください」とか。そうした合意がないと、「君のほうが詳しいからやってよ」と言われてしまって負担が大きくなります。この事前仕分けに使えるのが「BIM実施計画書」や「BIM Execution Plan」と呼ばれるもので、納品日などのほかにやり取りうえの約束事を書いておくだけでも使えます。1件目のBIMプロジェクトで、完璧なBEP(BIM実施計画)を書くのは難しいですが、2件目以降はうまく書けると思います。トラブル防止にもなりますし、別のケースで展開もできると思います
。ソフトの互換性は年々良くなっているので、将来に期待もできますが、「Jw-cad」は国産なので独特なところがあって、その分、絶大な支持を得てもいるので悩ましいところですね。
Q3.4 BIMを使っていると、つねづね「情報体系」が必要だと感じる。カテゴリ、パラメータ、タイプ、管理番号などのコーディネーターが必要で、それを実務者が兼ねるのは負担が大きい。
石澤──例えば直方体をつくったときに、それが梁か柱か、家具なのかは、属性が示します。シンプルに考えるとBIMとはそういうものです。そこで、ある人が「梁」とつけて、別の人が「beam」とつけてしまうとうまく探せなくなるので、あらかじめ仕組みを考えてそれに従って情報を入れれば検索しやすいし、漏れもなくなります。そうしたシステムは「Uniformat」とか「OmniClass」と呼ばれているもので、通常は見積り表にも紐づいています。「B01」は基礎、などの決まりがあり、それに習ってやりましょうということです。日本の場合は、公共工事標準仕様(公共標仕)という国土交通省が使っているものがあり、それを使うと見積りとの互換性は良くなりますが、アメリカやイギリスを無視して、日本語フォーマットで入れたほうがいいのかというと悩ましい問題です。私も日本語のフォーマットシステムを整備するべきかどうかというのは一概に言えませんし、やはり国際的なルールを使うメリットは大きいと思いますが、例えば日本で一般的な工事だが海外仕様では区分けがないなどという欠点もあります。本来は誰かがそうしたシステムをつくったほうが良いのですが、現状では割に合わないけれども実務者が仕方なくその場でひねり出して情報を入れるというケースが多いです。だからこの質問への回答としては「その通りですよね」ということになります
。Q3.5 建築実務のなかで面積は最も重要な要素だと思います。モデルと面積の取り方が一致しない場合、実情どのように対処しているか。また、どのように対処していくのがよいと考えているか。
石澤──今回いただいた質問のなかでじつは個人的に一番アツい質問でした
。例えば、今この部屋の面積を考えると、日本で一番よく使われている面積の取り方は壁の中心線(壁芯)によるものになりますが、じつは世界的にはそれはマイノリティです。例えばRevitでも、基本的には壁の内法での設定が扱いやすいです。日本の建築基準法の床面積は容積率にも関係していて、ローカルな計算のルールがありますが、BIMはオブジェクトによって管理します。つまり、ひとつの建物や部屋に対して、複数の面積があるのが実情で、それをどう管理するのかという問題ですが、これには決定的な答えがありません。国によってもルールが違い、ひとつ部屋に対してひとつの定義による面積だけでは足りない場合もあります。ダミーのオブジェクトを置くとか、部屋は分割線で部屋を分けるとか、やり方を工夫することは可能です 。一方で、マニアックにつくり込んでしまうとほかの人が理解できないものになりますし、どこまでやるかは難しく、この問題は地味に見えて厄介です。良い方法をシェアしながらやっていくのがベストなのではないでしょうか。Q3.6 BIMマネージャーとプロジェクトマネージャーは、どのような力関係でどのように協業するのがベストなのでしょうか。
提坂──繰り返しになりますが、意匠設計のリーダーやプロジェクトマネージャー(PM)がプロジェクト全体を進行することは変わらないと思います。BIMマネージャーに期待されているのは、プロジェクト全体を見ているリーダーの下でチーム全体のプロダクション方法や進行状況を管理することです。そこをサポートすることができて初めて、プロジェクトマネージャーとBIMマネージャーはプロジェクトを効率的に進めることができます
。Q3.7 プロジェクト管理(設計〜建設)以外で、竣工後の維持管理ではどのように役立つのでしょうか。
石澤──BIMはお客さんのためにもなるということは以前から言われていますが、成功事例は少ないと思います。お客さんが必要としている情報のなかで、何がBIMモデルに入っていれば良くて、それがどの程度つくられているべきかというところで喧嘩になるからです。やはり、きちんとつくろうとするときりがないですし、プロジェクトの途中だと忙しくてなかなか自分の専門分野以外のデータの空きフィールドを埋めることに労力が割けません。人件費を割いてデータを入れるとしても、そのモデルに値段がついて買ってもらえるかは難しいところで、まだまだというのが実情だと思います。
また、お客さんにとっては当たり前のように思われても、設計者がケアしていない情報がたくさんあります。例えば新築の建物の電話番号は竣工後でないと決まりませんし、それらを誰がケアするのかという問題もあります。ある程度情報を絞るのが現実的なのですが、そうした話をプロジェクトの早い段階からできるケースは稀です。今後お客さんのBIMに対する認知が上がるに連れてノウハウが蓄積されていくとうまくいくようになると思います。
また、改修工事のときにお客さんが建物の図面や確認申請図を紛失してしまっていることもよくあるので、お客さん自身がデータというかたちでを建物情報を持ち続けてくれれば将来的にとても助かることになるし、さらにそれを使ってくれればすごくメリットがあると思います
。Q3.8 先ほどBIMにおける面積の情報化の難しさについての話がありましたが、ほかに建築における空間など、情報化の難しさやもどかしさを感じるものはありますか。
石澤──ひとつ例を挙げれば、確認申請で求められる「避難距離」です。建物内のある場所から避難階段や避難設備にたどり着くまでの最長の距離のことですが、BIMには「避難する道」というようなオブジェクトはありません。図面では考えもしなかったようなことが意外と難しかったりします
。BIMはよく「建物のデジタルツイン」と言われ、しっかりつくると実際の建物の双子のようになるという考え方で、私は好きなのですが、避難距離のように現実に存在しないために扱いづらい情報もあります。そういったものに対してはなかなか良い方法はないのですが、プロジェクトのなかで便宜上解決することも多くあって、それもBIMのリアリティではないかと思います。提坂──構造モデリングをやっていて、なぜこれがないのかと最初に思い当たるのが「接点」オブジェクトです。梁や柱の始点・終点のXYZ座標は取れるのですが、ある点のXYZを知りたい時に、そこに柱がない限り取れません。解析モデルのように、要素から独立した接点があって、Excelで数字を動かせば柱・梁などが追随してくれたら良いなと思います。なぜつくらないのか不思議に思っています。点からすべてのジオメトリを組み立てる「CATIA」にはありますね。
石澤──似たようなソフトウェアでも思想が違うものがありますね。
Q3.9 Rhinocerosのようなソフトウェアにプラグインを入れてBIMツールとして使う場合のメリット、デメリットを知りたいです。
提坂──それを力技と呼んでいます
。本来BIMに対応していないソフトウェアにBIM機能を付随させるためのプラグインを追加していくと、その人のPCでは使用できても、ほかの人の作業環境ではそのモデルが受け取れないことが多々あり、それがハンディキャップになります。例えば、私が情報を付加したRhinoモデルを石澤さんに渡しても、追加された情報を見ることを想定していない石澤さんの環境ではその情報は見られません。つまりBIMのプロセスで一番肝心な、チーム全体の作業環境を整える面でデメリットになってしまうのです 。石澤──Rhinocerosは私も好きですが、使えば使うほど思うのは、建築用ではなく車やプロダクトなどに適した汎用3Dソフトウェアだということです。だからこそ今まで建築でできなかったような面白い形をつくることが得意なのですが、例えば、フロアの設定がないとか、ちゃんとした建築の図面を描くのは大変です。やれないことはないという意味で「力技」です。「餅は餅屋」ですから、実務者にとっては賢く使い分けるという判断の方ほうが多いのではないでしょうか。
Q3.10 プレカットマシンとの連携がどこまで可能で、これからの見通しはどうでしょうか。あるいはその課題を教えてください。
石澤──あらかじめ工場で部材を必要な寸法に切ってから現場に持ってくることで、現場が楽になるし精度も確保しやすいというのがプレカットです。プレカットで大事なのは、工場の機械が寸法を理解できるということです。私が知っている限りではそれほどうまくいってなくて、特に鉄骨ではそれが顕著です。鉄骨屋さんは多くが十数年前に買った機械を使っているので、最新のTeklaのデータがそのまま入らず、実際はオペレーターさんが個別に寸法を打ち込んでいます
。将来的にはBIMのデータから直接機械を動かすことができるかもしれないのですが、まだあまりリアリティがないと私は理解しています。前半でお話したように、生産性を上げていくためにお互いにデータをやり取りする際の境界線やルールを探し出していくことが必要だと思います 。- 1. 導入・キャリア系
- 2. 教育系
- 3. 実務系
- 4. 概念系