第4回:コンピュテーショナルデザインの現在地
建築を情報の観点から再定義しその体系化を目指す建築情報学会。その立ち上げのための準備会議が開催されている。「10+1 website」では、全6回にわたってこの準備会議の記録を連載。建築分野の内外から専門的な知見を有するゲストを招き、建築情報学の多様な論点を探る。連載第4回は、角田大輔氏がモデレーターを務め、実務の側面からコンピュテーショナルデザインの現在地をテーマに議論する。
−
角田大輔プレゼンテーション
角田大輔──私は日頃、コンピュテーショナルデザイナーという肩書で仕事をしています。今日はコンピュテーショナルデザインに関して
、これまであまり表立って議論されていないことを、いいところも悪いところも含めて「現在地」を議論したいと思います。ゲストは石津優子さんと杉原聡さんです。石津さんは、プログラミングを用いたジオメトリデザインエンジニアとして、設計と生産・施工をつなぐ領域で活躍されています。杉原さんは、トム・メイン率いるアメリカの設計事務所モーフォシスで実務を経験され、長いあいだアメリカの大学で教育にも携わられてきたコンピュテーショナルデザインの第一人者です。- 角田大輔氏
まずは私から、今日のガイダンスとしてお話をします。そもそもコンピュテーショナルデザインとは何かは、現段階でその定義も人それぞれ違います。建築の外では「Design In Tech」というイベントが2015年から毎年行なわれており、デザインの領域で、いかにテクノロジーを使うのかが議論されています。
そのなかで、デザインには3つの種類があると言われています。1つ目は「クラシカルデザイン」。従来通り、ひとつのものをいかにして美しく、格好よくつくるかというもの。2つ目は「デザインシンキング」。ユーザー中心のビジネスを設計するための、ビジネスの領域でよく語られている方法です。3つ目が「コンピュテーショナルデザイン」。対象や領域を限定してデザインするのではなく、あらゆる人に向いたデザインを提供するために、コンピュータ的な処理を必要とするデザインの方法です。
例えば、ウェブの領域には「レスポンシブウェブデザイン」という、デバイスや視聴環境の違いに合わせてデザインを施すというものがあります。また、今年話題になりましたが、ファッションの領域では「ZOZOスーツ」があります。従来は、S、M、Lという規定のサイズから人が選んでいましたが、ZOZOスーツは着る人に合わせた服の提供を可能にしています。
つまり「1対1」のデザインではなく、デザインシステムとして「1対n」に対応しようとしています。ひとつのものから、いかに多様なものを生み出せるか。Design In Techでは「インクルーシブ(包括的な)」がキーワードとしてよく出てきます
。さまざまな人を取り込む、包括的なものを、ひとつのデザイン、いくつかのデザインで応えることが問われています。従来のデザインは、まず問題に対して答えを出すという道筋です。そこでは往々にしてデザイナーのスキル、アイデア、経験に依存しているので、答えの導き出し方はブラックボックスです。どのようにたどり着いたかはわからないけれど、最終的に答えが出てそれを評価する。一方、コンピュテーショナルデザインは、この第1回の準備会議でもキーワードとして出ていますが「プロシージャル型(手続型)」にしていかなければ答えにたどり着けません。そもそもコンピュータが処理できないからです。これはプログラマブルシンキングとか、プログラミング思考とも言われます 。
- fig.1──ノン・プログラマブルシンキング(左)とプログラマブルシンキング(右)
これを実現するためには、メカニズムやルールを発見することが非常に重要です。プロシージャル方式のデザインフローはじつは簡単で、つくって、評価して、その結果をフィードバックさせてつくり直す、というやり方です。
従来のやり方だと、アナログに「右に動かし、左に動かし」と修正をしていましたが、コンピュテーショナルデザインでは、何千回、何万回と繰り返すことが可能です。ただし、その最終的な評価を、人間がやるのか、コンピュータがやるのかでも変わってきますし、いかにシステマティックにやれるのかがひとつの肝だと思います
。建築が複雑なのは、そこに環境的な要素を含めたものを評価指標としてフィードバックさせたり、構造や人の動き、施工などの要素が関係するからです。こうして複雑な要件になると、とにかくたくさんの解がつくれるものの、結局何がよくて何がわるいのかという話になりがちです。ここで示す例のものは、レイアウトを幾通りも自動で生成できるデザインのシステムをつくりました
。この際、システムから生成されたものから選ぶだけではなく、最終的に選んだもののなかから微調整が可能なデザインの余白を用意しました。この余白を可変にする仕組みをつくったことが重要で、結果的には微調整を少しすることですんなりと決定しました。- fig.2──日建設計の設計グループのプロジェクトとその手法を紹介した「山梨グループの設計手法」展(2012)のためのレイアウトシステム[提供=日建設計]
コンピュテーショナルデザインで解を膨大に生み出していくことは、インプットやアウトプットを含めたデザインプロセスのつくり方次第で、いかようにもできます。でも解が増えるからこそ判断が曖昧になり、いかに評価・意思決定するかが重要な問題になるのです。実務レベルでは、さまざまな指標のなかで、どれをトレードオフするのかという議論になります
。そうした意味で、おそらく個々人が悩みながらデザインプロセスを日々つくられていると思います。今日は、こうしたあまり表に出てきにくい葛藤の部分も含めた問題を議論できればと思います。